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第二回定時放送、または66番目の登場人物 ◆LJ21nQDqcs氏 そこはモニターの山だった。 わたしはぬいぐるみを抱いたまま、無数のマウスとキーボードを操り続ける。 開始と終了を繰り返し続けて、もう幾千となるだろうか。 コレほどまでにモニターに長い間集中して向かったのは、果たして何時くらいぶりか。 大仰なこのヘルメットから下されるヴィジョンを基に、 処理速度を上げたわたしの感覚が、最早わたしの感情よりも遥かに速い速度で、迸る。 トップ率.756。今一勝負終えて、.757に上がったか。R4807。まだまだ上げられる。 鳳凰位などと言ってもこの程度であっただろうか。なんの歯ごたえも無い。 ガンダムなどというふざけた名前のあの機体も、まるで駄目だ。話にならない。 嗚呼、先程のあの凄まじい支配を見せた、あの打ち手とまた打ちたい。 あの対局には、今まで無数のモニターを同時に操っていたわたしも、意識を収束させねばならないほどだった。 全ての意識を収束させれば、あの支配も全て断ち切ることは出来る。 そんなオカルトはありえないからだ。 いくつかのモニターの先で爆発が起きる。最早なんの感慨も無い。 丁度タイミングが良かったのであろう。モニターの殆どで終局が訪れた。 「投了です」「お母さん…!お母さん…!」「タンヤオドラ2」「リーチのみ、1300」「嫌だ!死にたくない!」 「光が…」「流局、ノーテン」「待ってくれ!」「俺の、俺の右腕はどこだ?!」「6000オール」「化物めぇ!」 「やめて!殺さないでえええええええええええええええええええ!!」 対局にアクセントが加わり、点棒と生命の支払いが終わる。 どうやら、命のやりとりをしている、ということを意識させるための措置のようだが、 最初の一時間ほどで集中状態に入った為、なんら揺らぐことはない。 硝煙と土煙と別世界の空がモニターに映され、わたしの分身達も銃を下ろして次の指令を待つ。 ふと表示を見れば、もう4桁、か。試験としてなら十分な数は揃ったはずだ。 不意にモニターの一部が入れ替わる。 これは予想してなかった。 そして、まだあどけない少女の、だが機械的にも程がある声がモニターから響き渡った。 ■ 『こんにちは、みなさん。 これより第二回定時放送を始めさせていただきます。 戦闘中の方も、休憩中の方も、一時手を休めて傾聴していただくことをお勧めします。 ・・・・ ・・・ ・・ ・ よろしいでしょうか。 まず最初にお詫びび致さねばならない案件があります。 正午に運転再開を予定しておりました列車ですが、作業が滞っている為 今しばらくのお時間がかかります。 午後三時からの運行を目指して現在鋭意作業中でございますので、 参加者の皆様におかれましては、どうぞそれまでお待ち頂けますようお願い申し上げます。 なお、列車内は禁止エリア外とさせてただきます。 列車から一歩でも外に出られた場合は、その限りではございませんので、ご注意下さい。 次に午後三時からの立ち入り禁止エリアについて、発表させていただきます。 【C-6】 【D-6】 【E-5】 この3エリアに関しましては、午後三時から立ち入りを禁止させていただきますので、 参加者の皆様ご注意下さい。 次にこちらで確認された、午前六時からの死亡者を発表させていただきます。 再度の読み上げはございませんので、ご注意下さい。 【アーニャ・アールストレイム】 【神原駿河】 【キャスター】 【黒桐幹也】 【琴吹紬】 【真田幸村】 【セイバー】 【刹那・F・セイエイ】 【田井中律】 【利根川幸雄】 【八九寺真宵】 【福路美穂子】 【船井譲次】 【本多忠勝】 以上14名です。 現時点でお残り頂いております参加者は、36名となります。 また、現在全エリアを通して快晴ですが、 午後三時前後から、D-6エリアを中心に濃霧が予想されております。 視界が悪くなりますのでご注意下さい。 私からは以上です。第三回定時放送で、またお会いしましょう。 最後に遠藤からの挨拶で、第二回定時放送を締めさせていただきます』 ■ 『諸君、この六時間でも諸君はよく頑張ってくれた。 その尊い犠牲と奉仕精神には、私を始め主催帝愛グループは感嘆の意を評さざるを得ない。 諸君の戦いはまさに芸術である。その魂の輝きは、必ずや明日の糧となるだろう。 そして、そんな健気な諸君のために、私からせめてもののプレゼントとして、諸君に新しい仲間を紹介したい……! そう…!《66番目の仲間》だ……! 彼女は殊勝にもこのゲームに自らを捧げると、そう宣言してくれた……! なんとも…!なんとも美しい奉仕精神ではないか…!そして、彼女は既に、そう…! 12時間前からこの島に居る……! 名を紹介しよう……! 《原村和》だ……! 彼女は諸君と同じ条件だ……!基本支給品を与えられ、それとは別にランダム支給品を3種与えられている……! 同じ…飽くまで、同じ条件…! 果たしてその生命をすぐに散らしてしまうのか、はたまた最後の独りとなるのか……? 諸君……!新しい新入生を歓迎してくれたまえ……! では六時間後、第三回定時放送でまた会えることを楽しみにしている……!以上だ……!』 ■ 「そうか、もう、なのですね」 わたしは放送を聴き終えて、そう呟いた。 この部屋で12時間、ひたすらに『別世界での戦闘行為』を繰り返させていたのは、 やはり、ここで実戦投入させるためであったのか。 それにしても、予想していたよりもやや、早い。 参加者の減りも予想よりも遥かに、速い。 なにかトラブルがあったのか、それとも彼らの中で何か焦らざるを得ない事情が起きたのか。 【ゼロシステム】は、それに対してなにも応えてはくれない。 オンライン購入し、数を増やし続け、32人を数える【妹たち】はなにを思うのか。 しかし彼女たちは話し相手にはなってくれない。 ただ命令に従い、【MDシステム】によって、わたしの手足のように動くだけだ。 あらゆる可能性を模索し、三桁に届くかという予測を立てたその頃、モニターの一つが一人の男を映し出す。 『よく今まで働いてくれた。そして、これからが本番だ 今まで見つからなかったのは、まさに幸運だったな。 この部屋ごと潰される可能性もあったというのに。 まぁいい。無論【宮永咲】は無事だ。君が優勝したら身柄を無条件で引き渡す点も、守ろう。 さぁ、殺せ。阿鼻叫喚の魑魅魍魎が跋扈する、この島で 生き残ってみせろ。 君の働きにはわたしも期待している。次の定時放送後にまた連絡を入れる。 その時まで生き残っていたら、今度は【宮永咲】と話もさせてやろう。 頑張りたまえ。健闘を祈る』 金髪の男はそう言い終わると、一方的に通信を閉じた。 ディレクター、ディートハルトと言ったか。 どうせ、予め仕込んでいた映像を流しただけに過ぎないだろう。 逆探知も無駄だと分かる。 それにしても 咲 さ ん 嗚呼生きていてくれたのですね。良かった。早くあなたの声が聞きたい。 咲さんの為に、千人もの命を散らさざるを得なかった。 その犠牲がようやく実を結ぶ、その一歩手前まできた。 しばらくはあいつらの信頼を得るために、殺し合いに乗るしか無いだろう。 だが、あいつらが本当に、咲さんを無事なままで済ますとも思えない。 早く咲さんの居場所を探し当てて、この島から逃げ出す方法を探さねば。 チャンスは…そして他の参加者とコンタクトを取る方法は… とにかく生き残らなければ。とにかく命の危険をもたらすであろう可能性を、刈り取らなければ。 そして、他人を殺し合いに参加させて、自分たちは絶対に無事であろうと慢心する、あいつらに教えなければ。 Such an Occult is Absolutely impossible! そんなオカルトありえません、と。 【E-6/小川マンション410(405号室/一日目/日中】 【原村和@咲-Saki-】 [状態]:健康。電脳(イントロン)状態。 [服装]:清澄高校夏服 [装備]: [道具]:基本支給品、パソコン33台、妹たち@とある魔術の禁書目録*32、ゼロシステム@新機動戦記ガンダムW モビルドールシステム@新機動戦記ガンダムW、オンラインショッピング権 50億ペリカ(デバイス内にデータとして保存) ※他にもペリカを利用して武装を強化しています。他の書き手さんにおまかせ。 [思考] 基本:咲さんを救出し、島から脱出する 1:三時までは静観。邪魔をする存在は、モビルドールシステムを駆使して、妹たちを手足のごとく動かし殲滅する。 2:武装を強化するためにオンライン麻雀でペリカを稼ぐ 3:魔法とか超能力とかSOA(そんなオカルトありえません)! [備考] TV版最終回合宿直後の状態からの参戦です。 すでに『別世界』にて千人以上の人間を殺害しています。 【モビルドールシステム@新機動戦記ガンダムW】 パイロットなしにモビルスーツを操縦出来るシステム。 原村和はその無線を利用して妹たちを操作している。 【妹たち@とある魔術の禁書目録】 御坂美琴の体細胞クローン。 能力はレベル3の欠陥電気(レディオノイズ)に調整されている。 オプションで軍用ゴーグル、おもちゃの兵隊が付いてくる。 実験で死亡しなかった10032~20001号まで存在する 検体番号00000号、9982号、10032号、20001号は欠番 ギャンブル船の裏カタログに記載されている。 購入には1体に付き5000万ペリカ(+3000万ペリカ)必要。 【オンラインショッピング権@オリジナル】 島内のパソコンからギャンブル船にアクセスし、 オンライン麻雀でペリカを稼いだり、ギャンブル船の交換リストから景品を購入したり出来る権利書。 ペリカはデバイス内に転送され、景品は所有者の元に転送される。 ※ 原村和は参加者ではない。 故に首輪もダミーである上、優勝特典も与えられていない。 ただ優勝した場合、宮永咲は解放され、2人ともに元の世界に帰ることを約束されている。 現在、宮永咲は五体満足、精神的にも無事ではあるが、現在地は不明である。
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六爪流(後編) ◆LJ21nQDqcs 巨人は未だ、最初に奇襲を掛けた位置から動いていなかった。 私が肩口につけた傷口は、最早痕跡を探すのすら難しいほどにふさがっている。 激しく大地を打ち鳴らす雷光を背に佇む巨人の姿は、ギリシャ彫刻のそれのようにある意味美しい筋肉美を誇っている。 だがその性は戦闘本能のみに特化された化け物だ。 故に戦闘の開始を告げるのは、この巨人の咆哮だった。 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ー!!」 それを合図に私達三人は同時に駆け出す。 目指すは巨人の首一つ! 私が狙う巨人の獲物は、その左腕に握られた巨大な槍。 忌まわしき私の右目が開く。 瞬間、全ての事象が凍結したかのように停止して見える。 私の右目は元々固く閉ざされているために、普段開かれることはない。 閉ざしていることを忘れることすらあるくらいだ。 そしてそんな封印さえ、極限まで集中力を高めたときには解除されてしまう。 私は今、その逆を行っている。 つまり右目を開くことによって、極限まで集中力を高める。要するに条件付けに右目を利用しているのだ。 こんな発想もこの異形の右目を綺麗だと褒めてくれた、上埜さんのおかげだ。 そして同じように右目を褒めてくれた伊達さんのためにも、この力を十二分に利用する! 巨人の肩の起こり、肘の向き、上腕、下腕の筋肉の躍動、手首の変転。 全てが手にとるようにわたしの脳裏に伝わる。 問題はこの情報を如何に有効に扱うか。今までの私には、それを利用する身体が無かった。 しかし今は醜い"左腕"がある! 例え悪魔の腕であろうと、この場においては全て利用する。 明智光秀との戦いの時のように集中さえすれば、巨人の膂力が如何に怪物的であろうと受け止められるはず! 私が巨人の左腕と接触するその瞬間、伊達さんはバックステップを踏んで距離を取る。 さらに左ではヴァンさんが「コノヤロー!」といいながら刀を振り上げている。 よって、巨人にとっては先に到達する攻撃は私とヴァンさんの攻撃、と言う事になる。 当然、巨人も私達二人に神速の攻撃を仕掛け、機先を制して串刺しにせんと大槍を繰り出し、真っ二つにせんと大斧を振りかぶる。 私の眼前に迫るは闘技場控え室での明智光秀の突きを、遥かに凌駕する暴力的なスピードとパワーの奔流。 完全に受け止めることは出来無い。受け流すしか無い。 幸いあの時と違い、私の手元には名刀大包平がある。リーチと頑強さにおいては"左腕"など問題にならない。 そして私の乗る馬は、神速と言うエネルギーを私に与える。 つまり私だってあの時とはリーチとスピードと運動エネルギーが桁違いに増幅されている。 あの遥かに膨大なエネルギーを持つ巨人の突きをずらす事すら、不可能ではないはず! 巨人の槍が近づく。 先端が音速でも超えているのか、激しい爆音をあげながら近づいてくる。 ソニックブームが来たら終わりね、などと思う間も無く穂先が必殺の勢いを増して接近してくる。 私も突きを放ってこれを迎え撃つ。馬の膨大な突進力も加わって、今まで体感したことの無いスピードを私の身体が引き起こす 確か柳生新陰流の奥義に切り返しと言うものがある。 対手の切っ先に自身の切っ先を当て、峰の厚みによって対手の斬撃を逸らし、自分の斬撃を対手の脳天に与えるというものだ。 以前聞いた時は本当にそんな事出来るのかしらと思ったものだけど、今私がしようとしていることはそれと似たようなものだ。 果たして切っ先は合わせた。巨人の剛腕が生み出すエネルギーは本当に凄まじく、触れた瞬間に私の身体がはじけ飛びそうになる。 だが、ここで吹き飛ばされるわけにはいかない!伊達さんの一撃のためにも右へ受け流さなくちゃ! そう、後はこのまま突き進むのみ! 後ろからロケットの噴射音のような轟音が轟く。 伊達さんが全身のバネを使って跳躍したのだ。 伊達さんは両手を頭上に掲げ、六本の刀を二つの掌の中に納めて×の字に高く高く構え、振りかぶる。振りかぶると言うより、もうあれはエビ反りだ 戦国武将の全力。文字通り魂を掛けた六つの爪が、巨人の頭上に降り注ぐ! 六爪の衝撃波か、爆風が巻き起こり、奔流が荒らしのように巨人の周囲を包みこむ。 もう立っていることすら出来なくなって、私は吹き飛ばされてしまった。 ◇ 「チェストオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」 俺は気合を入れてデカブツの右腕の斧に食らいつく。 振りかぶった一撃を受けた俺の身体は、地面にそのまま杭のように打ち込まれそうになるが、そんなことはさせやしねぇ! 両脚を前後に伸ばして屈伸し、全力で押し返す。 右を見ると片目の嬢ちゃんが、槍の一撃を受け流している。 あ、そっか!大真面目に真正面から受け止めるこたぁ無かったわな。 だがまぁこれくらいなら、眼帯の旦那が一撃を見舞うまでは持ちこたえられそうだぜ。 それ以上だと、このヴァンさんの身体が真っ二つになっちまうだろうけどな! 足がずしりと地面に食い込む。 それと同時に後ろから爆音が響く。 恐らくは眼帯の旦那が一撃を見舞おうと、全力を出しているんだろう。 まったく、あいつとこのデカブツの化け物具合にはほとほと呆れるぜ。 こいつらヨロイと同じくらいのパワーは持っているんじゃねぇのか? まぁ俺だってダンを使えれば、こんな奴吹き飛ばしてやるってのによ! 突然、全身を襲う圧力がさらに膨大に膨れ上がる。 頭上で拮抗する大斧、その大斧を握るデカブツの右腕が、すげぇ勢いで筋肉の塊になってやがる! 力コブでもう前が見えねぇ!どういうこった?!なんでこんなにもパワーを上げてやがる?! そうか!旦那の左の一振り、そいつがこいつにとっちゃ致命的なんだ! 左の一振りは奴の左肩口から袈裟斬りに切り裂いていく。つまり首と心臓が泣き別れになるってことだ。 奴にとって、それは一番回避しなくちゃならないことなんだろう。 だからこっちに圧力を重点的にかけて!? くそっ!旦那の一撃が奴を八つ裂きにするまでの一瞬だっていうのにやたらと長い! この一瞬さえ奴の攻撃を受け止めれば俺たちの勝ちだってのに! なのに! なのに、この一瞬すらも、耐え切ることが、出来ねぇって言うのかよ?! 畜生!畜生!畜生!畜生!ちくしょう! 「この馬鹿野郎がああああああああああああああああああああああああああ!!」 耐え切れねぇんだったら、せめて一太刀浴びせてやる! 旦那、片目の嬢ちゃん、すまん。 ダン、すまん。 エレナ、わりぃ。 折角みんなで、よってたかって生かしてくれたってのに、ここで終わりだ。 結局俺はカギ爪の野郎を殺すことしか出来なかった。 他の何かを見つけることは出来なかった。 だが、あいつに一つだけでも痕跡だけは残す。 それが俺の「何か」、だ。 俺の一撃が、抜きざまの蛮刀の一撃がデカブツの両目を切り裂き、 俺の身体を奴の大斧が切り裂いた。 ◇ 天賦運賦に身をゆだねるってな、こういう事を言うんだろう。 前すら見ない跳躍でこれまでに無いくらいの全力を一撃に込める。 ぶつかっちまえばどんな爆発が待ってるのか分からねぇ。 だが、やるのみだ。 幸い、ヴァンも福路美穂子も持ちこたえている。 この分なら奴の図体に六爪をぶち込むのは問題ないだろう。 と、視界の端に異様な肉の塊を見つける。奴の、巨人の右腕だと分かったのはその数瞬後だ。 グロテスクに膨れ上がったそれは、無造作にヴァンを叩き斬る。 Shit!ヴァン! あと一瞬、あと一瞬だけだ。 それでこの巨人をぶちのめせるってのに。 巨人はその一瞬の狭間で、右腕の斧をそのまま振り上げる。 させるか!俺の六爪の方が速い!そいつが到達する前にお前を叩き潰してやる! Shit!こんなことなら左の刀を右の下に置くべきだったか!二択はどうやら貧乏クジしか引かねぇようだな。 右の三爪が奴の右肩口に到達。 そのまま切り裂いていく。Good!いい調子だ! 次いで左の三爪が奴の左肩口に到た… つするよりも速く 奴の右腕に掴まれた斧が、 俺の左手首を吹き飛ばした。 「独眼竜は伊達じゃねぇ!てめぇなんざ右の三爪だけで十分だ!」 俺の全身に蓄えたPOWERを、全部お前に叩きつける! 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 奴の巨躯を両断する寸前。 まさにその刹那、奴の頭突きが俺の無防備な脳天を襲った。 脳髄に衝撃が加えられ、意思の伝達に障害が起こる。 鼻から血が吹き出て視界が一瞬で暗くなる。 舐めてんじゃねぇ! 脳が動かねぇからって、それがどうしたあ! そのまま右の一振りを振り抜いて奴の身体を、ようやくと両断する。 その瞬間、奴の身体からエネルギーの奔流が爆発し、奴の身体ごと俺を吹き飛ばした。 ◇ 気がついた時、そこはクレーターの縁だった。静寂がうるさいほどにわたしの耳をつんざく。 私が乗っていた馬も土砂に埋れて気絶しているようで、とりあえず命の危険はないように見える。 どうやら爆発の瞬間、飛びすさってくれたおかげで、私の身体は擦り傷だらけとは言え、五体満足ではあった。まぁ心臓は動いていないけど。 私がふとクレーターの中心、底の底を見ると、 そこに横たわっていたのは伊達さんと、…変わり果てたヴァンの姿だった。 ヴァンさんはなんとか意識があるようで、クレーターを滑り降りる私を見ると、なにごとか呟いたようだったが、最早声すら出ないようでヒューヒューと音が漏れるだけだった。 それもそうだろう。 ヴァンさんの身体は、脳天から縦に裂かれ、右半身が吹き飛ばされて消えてなくなっており、残った左半身すら、胸から上までしか無かった。 私の目から、なんの役にも立たない涙がこぼれる。 「ごめんなさい。」 そう呟くことしか出来なかった。 ヴァンさんは自分が喋ることが出来なくなっていることを理解したのか、左手の人差し指で伊達さんの姿を指さす。 伊達さんは、瀕死の状態だった。 鼻から血を流し、どうやら頭を強打しているのは見て分かる。 左手首から先を失っており、おびただしいほどの出血がピュッピュッとほとばしっていた。 私は急いで包帯を取り出すと、伊達さんの左手首をぐるぐる巻きにしてなんとか止血に成功する。 心音を確認すると微弱ながら鼓動は感じられる。 だが、このまま十分な医療措置を取らなければ死んでしまうことは私にも分かった。 嫌だ この状況は前にも出会った事がある。 片倉さんが眼帯の女に殺された時だ。 私を守ってくれたあの背中を、私は目の前でただ死んで行ってしまうのを、見ていることしか出来なかった。 嫌だ 助けることが出来るかも知れない命を目の前にして、逃げ出してしまうのは嫌だ。 しかもそれが片倉さんの大事な人である伊達さんだと言うのなら、尚更だ。 でもそれじゃあ唯ちゃんはどうするの? そうだ。巨人は既に無い。唯ちゃんに降りかかる危険も今や無い。 ならば唯ちゃんが居るであろう政庁に向かうべきなのではないか。 そこに伊達さんを連れて行けば、もしかしたら助かる術があるのかも知れない。 駄目だ そんな低い確率に賭けてしまったら、それはつまり悪待ちだ。 私は上埜さんじゃないから、きっと失敗してしまうだろう。 唯ちゃんを守るんじゃなかったの?伊達さんなんか放って置いてもいいじゃない。 駄目だ。そんなことしたら、助けられる人を殺してしまうなんて、ただの殺人じゃないの! 私が殺すのは主催とこのくだらないゲームに乗った人間。 決して伊達さんのような素晴らしい人じゃない! 私は姑息な誘惑を掛ける、くだらない左腕の拳を大地に叩きつける そうして左腕で伊達さんを抱きかかえるとクレーターの外へ飛ぶ。 ふと振り返る。 ヴァンさんが、半分の顔で微笑んでいる。 そのように見えた。 「さようなら、ヴァンさん」 もう涙で声にもならなくて、私はそれから振り返ることが出来なくなってしまっていた。 ■ ではどうするのか。 私は思案していた。 そして気がついた。『施設サービス』だ。 闘技場のそれは『ライブサービス』だった。 ならばここなら、もしかしたら、伊達さんを救えるのかも知れない! でも、施設サービスを使うにはペリカと言う金を使わねばならないらしい。 でも手持ちにペリカはない。 やはり駄目かと思ったとき、片倉さんの顔が思い浮かぶ。 絶望的な手傷を追っていたにも関わらず、私を救おうと立ち上がってくれたあの姿を。 橋の前で横たわっていた、遺体を。 ! 私は伊達さんのディバッグを探ると目的のものを見つけた。 血が滴るその袋を、ごめんなさいと心の中で何回も謝りながら、開く。 そこには目を閉じた片倉さんの顔があった。 そう、これは片倉さんの介錯された生首。 そして片倉さんの、首輪。 主催の思惑にまんまと乗らされるのは本当に腹が立つが、伊達さんを救うことが出来る可能性があるのはこれしか無い。 私は既に意識を取り戻していた馬に伊達さんを横たえ、跨ると一路南を目指す。 薬局へ! 【E-4/薬局前/一日目/夕方】 【福路美穂子@咲-Saki-】 [状態]:前向きな狂気、恐怖心の欠如、健康だが心音停止 [服装]:血まみれの黒の騎士団の服@コードギアス、穿いてない [装備]:レイニーデビル(左腕)、大包平@現実 [道具]:支給品一式、伊達軍の馬、片倉小十郎の生首と首輪 [思考] 基本:唯ちゃんを守る 0:薬局へ向かい、伊達さんを施設サービスを使って助ける。 1:唯ちゃんの意志を尊重というか優先というか、それを大前提として行動する。 2:主催者を殺す。ゲームに乗った人間も殺す。 3:ひとまず魔法と主催の影を追う。この左腕についても調べたい 4:力を持たない者たちを無事に元の世界に返す方法を探す 5:対主催の同志を集める。その際、信頼できる人物に政宗から受け取った刀を渡す 6:阿良々木暦ともし会ったらどうしようかしら? 7:張五飛と会ったらトレーズからの挨拶を伝える 8:トレーズと再会したら、その部下となる? ?:唯ちゃんを独占したい。 [備考] 登場時期は最終回の合宿の後。 ※ライダーの名前は知りません。 ※トレーズがゼロの仮面を持っている事は知っていますが ゼロの存在とその放送については知りません ※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています ※浅上藤乃の外見情報を得ました ※自分が死亡もしくはそれに準ずる状態だと認識しました ※織田信長の外見情報を得ました ※レイニーデビルを神聖なものではなく、異常なものだと認識しました。 【黒の騎士団の服@コードギアス】 黒の騎士団発足時に井上が着ていたコスチューム 超ミニスカ 【伊達政宗@戦国BASARA】 [状態]:瀕死。気絶、ダメージ(大)、疲労(極大)、左肩口に裂傷、左手首喪失(止血済み) [服装]:眼帯、鎧 、(兜無し) [装備]:六爪@戦国BASARA [道具]:基本支給品一式(ペットボトル飲料水1本、ガーゼ消費)、片倉小十郎の日本刀(半分ほどで折れている)@戦国BASARA [思考] 基本:自らの信念の元に行動する。 0:…… 1:小十郎の仇を取る。 2:主催を潰す。邪魔する者を殺すことに抵抗はない。 3:信長の打倒。 4:ゼクス、一方通行、スザクに関しては少なくとも殺し合いに乗る人間はないと判断。 5:戦場ヶ原ひたぎ、ルルーシュ・ランペルージ、C.C.に出会ったら、12時までなら『D-6・駅』、 その後であれば三回放送の前後に『E-3・象の像』まで連れて行く。 6:馬イクを躾けなおす。 [備考] ※信長の危険性を認知し、幸村、忠勝とも面識のある時点。長篠の戦いで鉄砲で撃たれたよりは後からの参戦です。 ※長篠で撃たれた傷は跡形も無く消えています。そのことに対し疑問を抱いています。 ※神原を城下町に住む庶民の変態と考えています。 ※知り合いに関する情報をゼクス、一方通行、プリシラと交換済み。 ※三回放送の前後に『E-3 象の像』にて、信頼出来る人間が集まる、というゼクスのプランに同意しています。 政宗自身は了承しただけで、そこまで積極的に他人を誘うつもりはありません。 ※政庁で五飛が演じるゼロの映像を見ました。映像データをスザクが消したことは知りません。 ※スザク、幸村、暦、セイバー、デュオ、式の六人がチームを組んでいることを知りました。 ※荒耶宗蓮の研究室の存在を知りました。しかしそれが何であるかは把握していません。 また、中野梓の遺体に掛かりっきりで蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界には気付きませんでした。 ※小十郎の仇(ライダー)・浅上藤乃の外見情報を得ました。 ※中野梓が副葬品(金銀・宝石)と共にB-3付近に埋葬されました。 ※宝物庫にはまだ何らかの財宝(金銀・宝石以外)があります。 ◆ 空が青かった。 嵐が去った今、頭上を遮るものは何も無い。 ヴァンはその不死身性故に無駄に長生きする我が身を呪っていたが、この空の青さは格別だ。 これを見れただけでもよしとしよう。 ふと、視界に見慣れた機影が映る。 「なんだ、お前。そんな壁に引っかかってたのか」 ヴァンは腕を差し伸べてこっちに来いと手を振る。 だが、届かない。 機体は遥か成層圏。さらに結界の彼方にあった。 「俺はもう逝くからよ。お前もぶっ壊しちまえ。このクソッタレのゲームをよ」 差し伸べた手は力を失い、地に倒れた。 その瞬間、島の北東にて大爆発が起こる。 自爆である。 成層圏の彼方。 結界の向こう側だというのに、その爆発は直下の施設を完全に破壊した。 第一放送後にまず封鎖された唯一の施設。 この島の要石。 北東の櫓を。 【ヴァン@ガン×ソード 死亡】 【ダン・オブ・サーズデイ@ガン×ソード 自爆】 ※A-7櫓とその周囲は完全に破壊されました。櫓があった地点は深く抉られたクレーターがあるのみとなっています ■ ズバッ! 直後、地中から腕が生えた。 否、地中深くに埋れていたのだ。 あの大爆発の中心にいた彼は、その爆風によりクレーターの底の底、さらに地中深くへと押し込められていた。 それがようやく地表に出ることが出来た。その直後だ。 左腕はクレーターの中央で静かに息を引き取った、哀れな遺体を鷲掴みにすると、そのまま地中へと引きずりこむ。 あの大爆発。 そして六爪による超絶剣技を受けて無事でいられるはずも無く、彼はその上半身の半分ほどを失っていた。 右肩、右胸、右腕を失った。両目も見えぬ。 地表に出てきたバーサーカーは口から血を滴らせ、這って戦場を目指す。 まだ足りぬ。 足りぬ。 足りぬのだ。 戦いはまだこの地にひしめき、彼を待っている。 戦闘を求めさまよう狂戦士の、落日は何処か。 【D-4南部/一日目/夕方】 【バーサーカー@Fate/stay night】 [状態]:魔力消費(大)、狂化 、右上半身喪失、失明 [服装]:全裸 [装備]:武田信玄の軍配斧@戦国BASARA [道具]:無し [思考] 基本:イリヤ(少なくとも参加者にはいない)を守る。 1:立ち塞がる全ての障害を打ち倒し、その力を示す。 2:キャスターを捜索し、陣地を整えられる前に撃滅する。 [備考] ※“十二の試練(ゴッド・ハンド)”Verアニ3は使い切りました。以降は蘇生不可能です。 ・無効化できるのは一度バーサーカーを殺した攻撃の2回目以降のみ。 現在無効リスト:対ナイトメア戦闘用大型ランス、干将・莫耶オーバーエッジ、偽・螺旋剣(カラドボルグ)、Unlimited Brade Works おもちゃの兵隊、ドラグノフ、大質量の物体、一定以下の威力の刃物、GN粒子を用いた攻撃、輻射波動、ゲフィオンディスターバー 六爪流、童子切安綱、大包平、ヴァンの蛮刀 ※狂化について 非戦闘時に限り、ある程度の思考能力を有します。 時系列順で読む Back 六爪流(中編) Next 常世全ての善と成る者、常世全てに悪を敷く者 投下順で読む Back 六爪流(中編) Next 常世全ての善と成る者、常世全てに悪を敷く者 208 六爪流(中編) 秋山澪 215 HERO SAGA 『角笛』 208 六爪流(中編) 伊達政宗 213 黒い聖母 208 六爪流(中編) 平沢唯 215 HERO SAGA 『角笛』 208 六爪流(中編) 福路美穂子 213 黒い聖母 208 六爪流(中編) ヴァン GAME OVER 208 六爪流(中編) 伊達軍の馬 213 黒い聖母 208 六爪流(中編) バーサーカー 215 HERO SAGA 『角笛』
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ゲーム・スタート ◆hqt46RawAo 天江衣は目を輝かせて、その景色を眺めていた。 小さな箱の中、二人納まればもう窮屈になるガンダムエピオンのコックピットの中。 彼と二人、モニター上を流れ過ぎていく景色を見送った。 「おお~! 速いなグラハム!」 「ふっ、まだまだ、本来はこんなものでは無いのだがな」 学校より進みだした一団の現在地点は、E-2の中央部やや北より、人の気配のない廃れたビル郡である。 一棟、また一棟と、長方形の灰色がモニターを通り過ぎていく。 「このエピオンの性能をフルに引き出せば、あっという間にこの島を横断することも可能と見ている。 パイロットたる私の真骨頂を披露できるというもの! ああ、だというのにこの状況、もどかしいな……!」 エピオンは先行するランスロットアルビオンに追従するように、都市部を西へ進む。 緩やかな低空飛行で、建造物に紛れるようにして、なるべく静かに移動していた。 目指すはここより更に北西にいるという、主催に対抗するもう一つの集団。 しかし現在は諸事情により、渋々このようにスピードを押えた走行と相成っている。 天江衣と共にコックピットに座る男、グラハム・エーカーはそれが内心不服のようであった。 「この運動機能、近接戦闘性能、図り知れん。悔しいが流石はガンダムと言わざるをえないな。 いや、そもそも私の知る『性能の基準』から大きくズレた機体だと感じている。 それはどちらが優れているかと言う話ではなく……」 「ふふっ」 「ん? どうした天江衣?」 「いやいや、グラハムよ。お前、血が滾っているな」 もともと、『ガンダム』という存在には多大なる執着を見せていた男である。 それは決着を付けるという方向の意志であったようだが、こうして直に動かしてみての感情と言うものもまた、 本人にしか分らない高ぶりがあるのだろう。 「……やはり、分ってしまうものか?」 「愚問愚問。隠したところで衣には筒抜けだっ! お前が柄にも無く心を燃え上がらせていることなど、顔を見なくてもわかる」 えっへん、と。 狭苦しいコックピットの中で、衣は得意げに胸を張る。 グラハム・エーカーの膝の上。 シートベルトで繋がれた、二人だけの空間。 彼女だけの特等席の上で、得意げに微笑んでみせた。 「なぜならっ! 衣とグラハムはっ! ……えと……その……」 勢いに任せてそこまで言ったものの、肝心なところで顔が赤くなってしまう。 照れに火照った頬を見られたくなくて、衣は慌てて口をつぐみ、俯いた。 視線を下げて、なんとなく足をぶらぶらさせながら、熱が引いていくのを待った。 「……その……い……」 「一心同体、だ」 ポフリ、と。俯いていた頭にグラハムの手が乗せられる。 男の手だ。強くて、逞しくて、ゴツゴツしていて、なのにどこか安心する。 こんなにも心が安らいでいく。 「今回は『失礼』、と言う必要も無いのかな?」 「…………うん」 「撫でるな」なんて、もう言う気も無かった。 わしゃわしゃと髪を軽くかき混ぜられる感覚に身を任せる。 目をつぶって、すり寄せるようにして。 「ふぁ……」 つい洩れてしまう情けない声を抑えることもせず、ただその感触に浸った。 「まだ、信じられないか? そうだろうな、分っている。君が不安を拭いきれないのは当たり前だ。 すべては私の力不足故のことだ。すまないと思っている。信じさせてやることが出来ないことを、情けなく思う」 しかし、撫でながら呟かれたグラハムの言葉は、真理を突いてはいなかった。 きっと先ほど言いよどんだ訳を誤解しているのだろう。 言葉は沈痛な色をしていた。 「そ、それは違うぞグラハム、衣はグラハムを信じているっ!」 だから衣は強く、強く否定した。 そんな誤解だけは、もうして欲しくなかった。 していて欲しくなかった。 この思いを、正しい思いを知ってほしかった。 「グラハムは衣を助けてくれた。ずっと助けてくれていた。 衣が辛いときも、怖くて死にそうなときも、いつだって傍にいてくれた、駆けつけてくれたのだ。 だから衣は……グラハムが大好きだ。誰よりも信じている。 いままでも、今でも、これからも、グラハムは……グラハムは衣の……衣にとって……!」 けれど、言葉は尻切れに途絶えてしまう。 行き先を見失ってしまう。 どう伝えればいいのか分らなかった。 この思いを。今の自分の素直な感情を。どんな言葉にすれば正しく彼に伝わるのだろう。 衣にとって、こんな感情は初めてだった。誰よりも信じている。大好きだ。それは言い切れる。 けれどそれだけでは伝えきれていない感情があるような、そんな思いに囚われる。 嬉しくて、けれど苦しくて、よく分らない胸の疼き。 少なくとも、家族の誰にも抱いたことはない、家族に向けた思いとはまた別の感情。 「……なあ、グラハム……顔を見せてくれ」 「どうした?」 結局、言葉を見つけることが出来なかった衣に、彼は変わらぬ調子で答えてくれた。 衣は上半身の力を抜いて、硬くて広い彼の胸板に背を預ける。 小さな少女の身体はそこにスッポリと収まってしまえる。 そして、衣は潤んだ瞳で、間近にある彼の顔を見上げた。 「衣に、なにが出来ると思う?」 「……言った筈だ。なにも、なにもしなくていい。君は生きてくれれば、それでいいんだ」 「でもそれじゃあ……」 「私が良いと言っている。君は懸命に生きている。それだけで、君は誇っていい」 「……そうか、うん、分った」 伝わらない。 思いは、伝わらない。 きっと永遠に、彼は知ってくれないのだろう。 当たり前だ、自分自身ですらよく分らない思いを、どうやって他人に伝えるというのか。 「天江衣……? 大丈夫だ。怯えることはない、これ以降の君は誰よりも安全だ。 私が保証する。私が君を守る。 その誓いを今度こそ、この身で証明しよう。その時こそ君の信用を勝ち取ろう」 「……うん」 ああ、ならばせめて、この思いを抱けた事に感謝しよう。 そんなふうに、衣は思っていた。 伝えられないことがどうしてか、胸が張り裂けそうに辛いけど。 思えることはどうしてか、こんなにも心を暖めてくれる。 『その時』が来るのは、凍えるように怖いけれど。 この暖かさがあれば最後まで、強がることが出来るかもしれない。 もう彼に出来る事は、それしか思いつかないから。 衣は目を閉じて、グラハムの胸部に自らの手の平を当てた。 彼の熱が、力強い鼓動が、そこから直に伝わってくる。 それだけで、勇気を分けてもらえるような心地だった。 安らげる、幸せだと、感じられた。 「…………っ」 二人の時間、揺れる揺り籠の中、 衣はこみ上げてくるものを必死で耐えた。 泣かない。 絶対に泣かないと決めいてた。 今この瞬間を、涙の思い出になんかしたくない。 笑顔の記憶として、ずっと持ち続けたい。 なぜなら、おそらくこれが―― 「グラハム……本当に、ありがとう」 天江衣にとって、最後の安息になるだろうから。 そう思って、天江衣は瞳を閉じた。 ■ ■ ■ ■ ■ 風を切る感触が全身に纏わりつき、轟々という音が耳を揺さぶる。 瞑りっぱなしだった目を少し開けて、眼球にぶち当たる冷たい感触に耐えながら、どうにか周囲を見回した。 しかし、やれやれ、まったくもって慣れる気がしないな、これは。 「お前は、よく、そんな、平気そうな顔色、で、いられるな……!」 僕――阿良々木暦は全身に直撃する風圧に絶えながら言葉を掛けた。 『もう片方の手』に座っている少女にむかって、ほとんど叫ぶようにして呼びかける。 「別に。呼吸しやすい体制を維持すれば、それほど辛くもない」 それに対して、少女――両儀式はすらすらと返答を返してきた。 澄ました顔はこの風圧を前にして淀みもしない。 閉じたその目蓋は微動だにせず、刀を手にして座っている。 僕なんか、既に這い蹲るような体勢だというのに。 息苦しさと、揺れの気持ち悪さに苛まれる。 振動やら風圧やら、この環境はまさしく最悪だった。 僕は現在、枢木スザクが操縦する巨大ロボットの『手の平の上』に乗っている。 エピオンに先行して都市部を移動中だ。 巨大ロボットに搭乗とくれば、男なら誰でも胸が踊るものかもしれない。 けどこれはちょっと、嬉しくないシチュエーションだろう。 手に乗っけて運ぶなんてぞんざいな扱い。 けどこればっかりは文句を言えない。仕方のないことだ。 ロボット自体は巨大だけど、コックピットは二人乗り込めばもう満員だった。 自然、ランスロットのコックピットには操縦者の枢木スザクと、その補助としてディートハルトが乗り込む事になる。 エピオンのコックピットにはパイロットのグラハムさんと、天江が乗っている。 天江は僕達の中で一番非力だし、何かあったときに一番安全な所にいるべきだ。 という、僕の案が採用された結果だけど。 正直言って、彼女の立場を考えると、僕にはこうする以外の選択肢なんてありえないように思えた。 ともあれ、残りのメンバーはコックピットに乗ることができない。 そして他に乗れるような場所となると、あとは『手』くらいしかないわけで。 現在は僕と式がランスロット・アルビオンの右手と左手に。 インデックスがエピオンの手に乗っている。 僕はこれで二度目の体験だけど、きっと何度乗っても慣れることはないだろう。 多分、吐くのは時間の問題だ。いろんな意味で、早く目的地について欲しい。 ため息をついて、式に言われた通りに、身体の角度を調節していく。 なるべく呼吸のしやすい体勢を模索する。 「はぁ、ほんとに、何事も無く着いてくれればいいんだけどな」 ぶっちゃけると、僕は不安だった。 奴が、ルルーシュが本当に信用できるのか、確実に天江を助けてくれるのか。 枢木との繋がりを考えても、ディートとの繋がりを考えても、穏便に事が進む保障はどこにもない。 それどころか奴は前に一度、僕を殺すことを念頭に置いた行動を取っている。 平沢憂と東横桃子、式が残して来たと言う秋山と言う少女の存在だって、大きな懸念だ。 少なくとも平沢と東横の二人は、殺し合いに乗っていたのだから。 一波乱あったほうが自然なくらいに思える。けど、それでも今は奴を頼りにするしかない。 焦る気持ちはある。もどかしい思いがある。 あの時、あの薬局で、白井黒子を待っていたとき以上の重圧を感じていた。 衣の死は、近い。残された時間が少なすぎる。 早く、もっと早く進めないのか。 そんなことばかり考えていた。 けれど現状では、僕に出来ることはなにもない。 もどかしい思いを抱えていることしか……できないのだろうか。 「なにか……」 なにかしよう。僕はこの時、そう思っていた。 手元にあった自分のディパックを開き、 顔面を張り倒すかのような風に顔を顰めながら、有用なものを探す。 状況によっては、戦う事もあるだろう。その覚悟は固めておくべきだ。 もしもの時、枢木はあちらにつくと公言している。 ならば頼れるものは、天江を守ってやれるのは、グラハムさんと、僕以外に誰もいないんだ。 僕も、戦わなくちゃいけない時が来るだろう。そう遠くない内に必ず。 ならば準備をしておかないと。 「よっ……と」 両義のマネをするように、座禅のような姿勢をとる。 無理せず目を閉じて、心を落ち着けていく。 なるほど確かにこうすれば少しは慣れる……かな、どうだろう。 「…………」 目を閉じて、ディパックの中を手探りであさりながら、 役に立たなさそうな物と、仕えそうな物を検分する。 けれど、動かす手とは裏腹に、僕は少し物思いにふけっていた。 僕はこれから、何のために戦っていくのだろう。 そんな事を考える。 目的、願望、希望、今の僕にそういった物は実の所、もう残っていない。 一番守りたかった人は死んでしまった。 好きな奴はみんな死んでしまった。 誰も救えずに、何も出来なかった、それが今の僕だった。 けれど天江だけは守ると、そう決めたのだ。 全てを失っていながらも、決して諦めない少女。 死に直面しても、命のカウントダウンを告げられても。 希望を見つめて、前をむき続ける少女を守りたいと、願った。 もう遅いのに。今更何をやったところで、本当に守りたかったものは帰ってこないのに。 それでも、僕は、守りたいと思っている。 これが僕なりの、後ろ向きの復讐だった。 僕は、僕に、恋人一人守れなかった馬鹿野郎に復讐する。 今更、守って、助けて、そして悔いろ。 投げ出すなんて許さない。出来る事を全部やって、救われずに帰ればいい。 死にたくなるくらい、生きてやれ。 どうせ、僕のストーリーはもう、バッドエンドが決定しているんだ。 ならば最後にあがいて、ハッピーエンドを見送るぐらいが潔いってもんだろう。 「変な顔(ひょうじょう)だな」 その声に隣を見れば、式がこちらをじっと見つめていた。 非常に変化がわかりにくいけど、普段より少しだけ怪訝そう、か? 僕はいま、いったいどんな顔をしているのだろう。 「そんなことも……ねーよ」 なるべくぶっきらぼうに返事を返しつつ顔を伏せた。 いつの間にか、荷物整理も終わってしまっている。 僕の持ち物には、今のところ有益なものはなさげだった。 「なあ、式。お前のディパックも見せてくれないか?」 もう、考えるのは止めよう。 これに関しては、考えるほどドツボにはまりそうだし。 「別にいいけど、大したモンは入ってないぞ。だいたいデュオのところに置いて来たからな」 ルルーシュじゃなくて、『デュオのところ』なんだな、とか思ったけど。 そんなことは顔色に出さずに、放り投げられたディパックを受け取る。 ま、僕もそれほど式のディパックの中身に期待しているわけじゃない。 式への勝手なイメージとして、僕が扱えそうなものをディパックに入れてそうな気はしないし。 多分僕のと似たようなもんだろうな。 というか式って僕達と合流してからは殆どディパック開けてないな、とか思いながら、彼女のディパックに手を突っ込んで……。 「…………」 底の方から飛び出してきたそれに、僕は暫し黙り込んだ。 ……いや。うん。あー……。 これは、アレか? いや、いやいや、そんな、まっさかあ。 「なあ、式」 「ん?」 式は至極面倒くさそうに返事をする。 「これ、なんだ?」 僕は、つまみ上げたソレを、示す。 「ああ、……通信機」 「…………マジで?」 「ってデュオが言ってたぞ、たしか」 オイオイ。 「それ……って、いつでもルルーシュと連絡が取れたってこと、か?」 「そうなるな」 「なんで、持ってるって、もっと早く言わなかった?」 「…………」 少し長い、溜めの後。 「忘れてた」 「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」 僕は渾身のツッコミを入れながら、切に思った。 コミュニケーションを面倒くさがるのも大概にするべきだ、と。 ■ ■ ■ ■ ■ 行間である。 これは、ある意味で、余談である。 さして気にする必要も、意味を解す必要も無い話だ。 それはただ、それとしてある、事実でしかないのだから。 事が動くのは、まだほんの少し未来のこと。 いずれ来たる事象にて、彼らは選択を迫られる。 だが、今はまだ知らない。 違う矜持を持つ二人の騎士も、思いを馳せる少年も、嘗て支配者の一部であった者達も。 しかして、ただ一人、この場で唯一、誰よりも早く、それを察知していた者がいた。 理屈、理解、理論、全てを超えた領域に、その者はあった故に。 故に誰にも理解し得ない感覚、領域にて、その者はそれを認識していた。 これは、ただそれだけの事実。 「――近い」 と、その者は揺り籠の中で呟く。 「妖異幻怪の気形」 誰かの胸の中で、小さく、誰にも聞こえない声で、それを呟いていた。 「悪鬼か……羅刹か……はたまたその双方を狩りし魔境の混沌か」 前方、行く果て、まだ見ぬ彼岸に在る気配、その強大さに震えながら。 「何れ、これほどの暴虐は感じたことが無い……」 震えながら、恐怖に、否、それは否だ。 「是を目前に、全ては烏有に帰していく」 果たして、その者は気づいていなかった。 「それ程の気配……」 それの接近を前にした己の言の葉とは。 「――来る」 それの接近を唯一知りえた己の貌とは。 「……衣の邂逅した事の無い大敵。之までで、最も奇幻なりし手合の気配……」 即ち、戦場に赴く武者の如き、其れであったことに。 その者は、気づかない。 ■ ■ ■ ■ ■ 『それで、結果は?』 疾駆する、ランスロットアルビオン。 そのコックピットの中で、枢木スザクはレシーバーを耳に当てていた。 「阿良々木暦によると、ルルーシュとの通信自体は短時間で途切れてしまったようです」 『途切れた? それは何故だ?』 レシーバーの向こうから聞こえてくるノイズ交じりのグラハムの声に、 スザクはため息と共に言葉を返す。 「向こう側で何かあったのかもしれません。けれど恐らくは、電波状況の問題だと思います。 距離か、それとも別の何かか、現在進行形でこの通信も不調ですし……」 『そうだな……この付近に、電波を妨害するような何かがあるのかもしれん』 話し続けながらも、右の操縦桿への集中を途切れさせることはない。 ただの前進運動であっても、隻腕の身では万全の操縦は望めない。 故にサポートとの連携には常に気を配る必要が有った。 『君は、彼とは話さなかったのか?』 横を見ると左桿の操縦桿を握るディートハルトの横顔がある。 ディートも視線を返す。「多少は会話に集中していい」と、目で告げていた。 「ええ、操縦中はこの場所を動けませんし、僕が繋がったことを知る前に通信は途絶えたようなので」 『なるほど。それで、状況の把握は?』 暦がルルーシュとスザクの通話接触を忌避したのでは、 という疑念があったがスザクは口には出さなかった。 言うまでも無くグラハムとて想定しているであろうし、わざわざチームの空気を濁らせる必要はない。 淡々と、スザクは会話を次に進めていく。 「幸い、位置を聞き出す事と、こちらの位置を伝えることは出来たようです。 ルルーシュは現在、エリアE-1とD-1の境界線を越えたあたりだと」 『それは、つまり……』 「このまま西へ進み続ければ、すぐに合流が可能です」 『北上を焦らなかった事が、吉と出たな……!』 レシーバーの向こうの声が、喜色と安堵を含んだ。 グラハムの高揚を感じ取る。 だが、対してスザクの心情は自分でも驚くほどに凪いでいた。 近づいている。今度こそ、近づいていた。 約束の時、再開の時、共に誓ったあの男が待っている。 長かった。現実の時間よりもずっと長く感じていた。 目前で逃したこともあった。近づいたと思えばまた距離が開いての連続だった。 その到達地点が、いま遂に目前にある。だというのに、高揚など感じない。 『もうすぐ、だな』 「ええ、もうすぐです」 在る物は一つ、変わらぬ意思がただ一つ。 『辿り着かなければならない』という、絶対の意志が在るだけだ。 邂逅を果たしたとして、それで終わりではない。 到達地点にて得る物は望んだ世界。 積み上げられた悲しみと犠牲の果て、造りだす世界だ。 そのどこに、心を熱くする要素があろうか。 しかし、たどり着かなければ始まらない。 たどり着いてこそ、始める事が出来るのだから。 停止していた時間が動き出す。これでやっと、第一歩となるのだ。 故に、熱を、自らの意志で自らに灯す。 振り返る。 優しき過去の残滓を振り払ったのは何のためか。 数多の化け物どもとぶつかり合ったのは何のためか。 彼を死なせる選択を受け入れたのは何のためか。 そう、全てはたった一つの約束の為に。 全てはそのために、戦ってきたのだから。 「今こそ……」 今こそ。 枢木スザクはたどり着くのだろう。 始まりの場所へと。 『――見えるか? スザク』 「――見えていますよ」 モニターの向こう側、そこに映る―― 『待ち伏せ……ッ』 最後の障害を越えた先に。 『こんな時に……ここまで来て……立ちふさがるか……!』 激昂の熱を帯びたグラハムの声を耳にしながら、 スザクはその眼でしっかりと直視する。 モニターの向こう側。 距離にして、五百メートルほど前方に、たった一人で、それはいた。 路上に一人、スクランブル交差点の中心に一人、灰色の空の下にそれはいた。 忘れもしない、影があった。 返り血まじりの白い髪。 ギラつく真紅の双眸。 少年とも少女とも断定できない細身の容姿。 纏う真っ黒い服装にはやはり血が染み込んでおり。 口元が裂けるように歪められ、凄絶な笑みを形作る。 その名は―― 「一方……通行……ッ!」 其れは、学園都市の頂点に立つレベル5。 其れは、最強にして最凶にして最狂たる超能力者。 其れは、能力名――一方通行<アクセラレータ>。 目指した鎮魂歌の開幕を目前にして。 ここに、最終にして最大の障害が、枢木スザクの前に立ち塞がっていた。 ■ ■ ■ ■ ■ スラスターを停止させたことで、エピオンの前進が止まった。 グラハム・エーカーは眼の奥に炎を滾らせながら、その光景を見ていた。 少し前方にてエピオンと同じように足を止めているランスロット、その更に前方。 左右を巨大高層ビルに囲まれた太い道路の先、距離にして五百メートル程先にあるスクランブル交差点に立つ存在。 一方通行<アクセラレータ>――前回の戦闘にて、多くの仲間の命を奪った宿敵の姿である。 『では、その方針で』 「ああ、首尾よく行こう」 スザクとの通信が途切れると同時、グラハムは迅速な行動に移った。 レシーバーを耳から離し、操縦桿を握る手を動かす。 そう遠くない位置に佇む敵影をサイトに捉え、武装を確認し、臨戦態勢を整えていく。 スザクとの短いやり取りの中で、既に対応は決定されていた。 ランスロット側でも行動は開始されている。 後は動くだけだ。うろたえることはない、と自らに言い聞かせていく。 前もって組み立てていた戦法を軸に、現在の状況を加味した結果、導き指される戦法を取るのみ。 エピオンの基本武装を全てチェック――問題なし。体勢の一段階目は整った。 そして素早く、サイトに映る敵の姿を伺う。 予想の範疇通り、一方通行に動きは無い。 膠着、それは想定済みだ。 敵の立場から考えれば、迂闊に攻め込めむことは躊躇うであろうし、そうでなくては困る。 しばらくは、少なくともこちらの意志を示すまでは、この状況が続くだろう。 事が一応の予定通りに進んでいる現状に、グラハム素直に安堵する。 ため息をついて、そこでようやく、膝の上の少女を見つめることができた。 「……すまないな」 間を開けて発した第一声は、やはり謝罪になってしまった。 少女は、答えない。俯いたままで、その表情は伺えない。 けれども、グラハムの胸へと直に伝わる微弱な動きが、その心情を表しているのだろう。 少女はスザクと通信を開始するより少し前から、 何かを察していたように俯いて、口を閉ざしていた。 そのまま、現在に至るまで一言も話していない。 グラハムには、少女の心情が予想できていた。 今顔を見せれば、泣きそうな顔を見られてしまう。 今声を発すれば、悲しみに濡れた声を聞かれてしまう。 それが、嫌なのだろう。 「偉そうな事を言っておいて結局私は……君を抱えて戦う事ができない」 血を吐く思いで言葉を吐き出しながら、コックピットのハッチを開く。 ひんやりとした外界の風が流れ込んでくる。 二人と共にあった空気が、霧散していく。 エレベーターの代わりを果たすように、エピオンの手のひらがコックピットの前方に持ち上がった。 「奴への対策は万全だった。本来、私は君と共に戦う事も辞さない覚悟だった」 その言葉に偽りは無い。 けれど今となっては、覚悟もただの非効率だった。 想定より少し速い敵との遭遇。 想定より少し速い黒の騎士団との接近。 そして何よりも対敵が一方通行であるならば。 「だが、君は……スザクと共に、ここから離れるんだ。一刻も早く、黒の騎士団の元にたどり着け」 言い訳はそこで打ち切った。 そんな事をしている時間すら今は惜しい。 少女だけではない、全員の命に関わる事なのだから。 グラハムは未練を断ち切るように、シートベルトの解除スイッチに手を伸ばし。 だがそこに、小さな手が重ねられた。 「……天江衣?」 少女は振り向かぬままで、ふるふると首を振る。 「いい、衣が自分でやる」 グラハムの手を優しくどかして、少女は自らの手でそのスイッチを押し込んだ。 パチン、とベルトが解除され、二人は結びの戒めから解き放たれる。 少女は一人、誰の助けも借りないまま、すくっと身体を起こした。 そして一足で、エピオンの手の上に飛び移る。 少女は、振り向かない。 巨人の手の上で、立ち尽くしている。 風が吹いていた。 少女の白いワンピースが波立つように揺れている。 風が吹いていた。 少女の長い金髪がさらりと流れて、煌く光の粒を散らしていく。 風が吹いていた。 カチューシャが揺れて、少女が振り返る。 「……グラハムっ」 少女は最後まで、笑顔だった。 「グラハムは強いから。絶対、あんな奴には負けないなっ」 再び戦場に赴く男を前に、またしても少女を置いて行く男を前に。 「やっつけてやれ、グラハム。そして、さっさと帰ってくるのだ!」 何一つ、不安など無いというように。 「衣は待ってるから……」 グラハム・エーカーはその時、ようやく理解する。 「ああ、当然だ」 目の前の少女が寄せてくれる、その真っ直ぐな信頼の深さを。 「私は勝つさ。勝って必ず、君のもとに帰ってくるさ」 だからこそ、なればこそ、グラハム・エーカーには最早、恐れなど在る筈も無かったのだ。 「天江衣」 「ん?」 「この戦いが終わったら、今度こそ私に麻雀を教えてくれ」 キョトンと。少女は目を丸くした。 そんなことは忘れていたと言うように、 終わった後のことなど、考えていなかったと言うように。 「……え」 「忘れてもらっては困るな。一緒に麻雀を楽しむのだと、約束しただろう。 そのお返しに私は、君を連れて空を飛ぼう。君に空の景色を見せたいと思っている」 約束をもう一つ、願いをもう一つ、空に懸けてみよう。 共に空を駆けてみよう。そう言った。 なんの気兼ねなく、気後れ無く、それを言えた。 必ず現実に出来ると、グラハムは何一つ疑えない。 負ける気がしない。 この思いが、信頼が胸にある限り、グラハムエーカーは負けるはずが無いのだから。 「パイロットとして、私が送れるプレゼントとしては、きっとこれが一番のはずだ」 「グラ……ハム……」 少女は一瞬、ほんの一瞬だけ、顔をくしゃりと歪めて、泣き出しそうに見えた。 けれどすぐにブンブンと首を振って、暗い面持ちを振り払い。 次の瞬間にはもう、花の咲いたような笑顔を浮かべていた。 「……うん、そうだなっ! 約束だっ!」 笑顔が、遠ざかっていく。 遠ざけなければならなかった、自らの手で。 コックピットのハッチを閉めていく、手の平に乗った少女の姿が降下していく。 朝日に光る、黄金色の笑顔を眼に焼き付ける。 「行ってらっしゃい、グラハム」 ハッチが、完全に閉じた。 揺り籠の中で、一人になる。 戦場という名の壁、領域に取り残された男は一人。 しばし、目を閉じた。 すっと膝の上の熱が冷めていく数瞬の間だけ、彼は自己に埋没し。 「ああ、行ってくる」 そして目を開くその瞬間、グラハム・エーカーは己の全てを切り替えた。 己の心を、戦士のそれへと変貌させていく。 全ての準備が完了した事を、確信した彼は言った。 「……そろそろ、始めようか」 『了解です』 通信機越しにスザクへと号令を鳴らす。 名残惜しいが、行かなければならない。 彼女を守る為に、己が役目を果たすために、交わした約束を現実にするために。 「グラハム・エーカー、出撃するッ!」 操縦桿を強く握り締めて、エピオンを目覚めさせる。 炸裂する起動音を鳴り響かせて、跳躍する次世代の兵器。 機体の大きさから考えると極短い距離を前進し、ランスロットの前方へと盾の如くに着地した。 地鳴りと共に巻き上がる砂塵。 曇る視界の中で、相対する敵の姿だけが鮮明だった。 その名は、一方通行。 対して、迎え撃つはグラハム・エーカーが操るガンダムエピオンと、そして――もう一つ。 後部モニターに映る、和服に身を包んだ少女の姿。 エピオンの背後の路上にて、一振りの刀を携えて優雅に立つ、両儀式。 無敵に限りなく近い対敵への、最大にして最適なる対抗策。 「二度の敗北は無い、今度こそ貴様を打倒する。行くぞ、化け物……!」 こうして、男は戦を開始した。 胸に刻み付けた決意を言葉にして、戦意を告げて。 ようやく、グラハム・エーカーにとっての、真の戦いが開始されたのだ。 ■ ■ ■ ■ ■ ランスロットは先ほどまでより細い道を進んでいく。 先ほどまでより若干速まったスピードで、だけど手に抱えた僕らに害の無いギリギリの速度で。 開始された戦いから逃れるために。 目指す場所へと急ぐために。 背後、鳴り響く戦火の音を、僕らは振り向かない。 残して来た者を、決して振り返ろうとはしなかった。 振り返ってしまえば、きっと迷いが生まれてしまうと分っていたから。 ルルーシュとの通信は、極々短いものだった。 僕は僕らがいる場所を告げて、奴は奴のいる場所を告げたところで、不意に途切れた。 奴の口調にはもう、猫を被ったような違和感を感じなかった。 推し量れない、重みのある声だった。 その結果と、現れた一方通行。 両方を吟味した結果、枢木とグラハムさんが下した結論とは、分裂。 式とグラハムさんが残って、一方通行を足止めする。 その間に僕らは、迂回してルルーシュとの合流を急ぐ。 たったこれだけの、シンプルな作戦だった。 現在のランスロットの手には、式の姿が消えて、インデックスと天江衣の姿が増えていた。 二人とも、何も話さない。 インデックスはもとから寡黙だったけど、天江の様子は明らかにおかしかった。 その理由は誰にでも察せられるだろう。 天江は僕と同じ左の手の平に座っている。 僕の隣、親指側、外側に座って、高速で流れていく景色を見送っていた。 僕にはかける言葉が無い。 式は兎も角。 グラハムさんが、いったいどんな意志であの場に残ったのか。 僕には分っていたし、きっと天江も察しているだろう。 だからこそ、何も言わないんだ。言えないんだ。 僕も、天江も、ただ振り向く事だけをしないように、戒めるしかないんだ。 「なあ……あららぎ……」 だから天江の口から飛び出してきた言葉は、きっとそれには関係の無いことだろう。 そう思って、耳を傾けた。 「グラハムは……きっと帰ってくるから、衣は心配して無いぞ」 けど、そうじゃなかった。 天江は信じていた。 グラハムさんの事を、絶対に帰ってくると確信していた。 それは強がりとか、言い聞かせているとか、そういうことじゃない。 「グラハムは言ったのだ……絶対帰ってくるって。 また会おうって……一緒に麻雀して、一緒に空を飛ぼうって……言ったのだ……。 だから絶対帰ってくる、グラハムは約束を守ってくれる」 天江は何一つ疑っていなかった。 グラハムさんの帰還を、彼の勝利を、心から信じていた。 「あららぎ……」 なのに、何故、その声は泣き濡れているのか。 僕にはそんなの、一つしか心当たりが無い。 「衣も……約束……破りたくない……」 天江の横顔に、一滴の涙が滑り落ちていく。 「約束、守りたい……衣も……生きていたい……!」 後はもう、嗚咽だけしか、そこにはなかった。 声を上げて、少女は泣いた。 彼の前ではずっと我慢していたのだろう、その涙を零していた。 僕には、かける言葉が無い。 その権利が無い。 だから、天江を抱き寄せる。 胸の中にその小さな身体を抱えて、もう一度、心の中で宣言した。 この子だけは、絶対に守る。 何があろうと死なせない。死なせてなるものか。 この先何があろうと、ルルーシュとの邂逅において、何が待ち受けていようと。 救ってみせる、この子だけは、死なせてはならないんだ。 「必ず、守る」 それだけを呟く。 天江には聞こえているのか、いないのか。 最も信頼する人の名を呼びながら、泣きながら、僕の胸を叩き続ける様子からは分らない。 僕はランスロットの手の平の上、天江が落ち着くまでそうしていた。 吹き荒ぶ風に乗って、 「偽善者め」「いまさら守ってなんになる?」そんな声が、どこからか聞こえる。 うるさい。黙れよ、と。 苦く、誰かに向かって、本当に苦く吐き捨てた。 僕はもう傷つくのも、傷ついた奴を見るのも、傷つけられる奴を見るのも、たくさんなんだよ。 こんなやり切れない涙を見るのは、僕自身だけでいい。 僕一人分だけで、もう十分だろうが。 ■ ■ ■ ■ ■ 終わりが始まったのはいつの事か。 始まりが終わったのはいつの事か。 それは気がついたときには始まっていて、振り返れば終わっているもの。 であるならば、現状とは始まりに値するのか、終わりに相当するのか。 何れにせよ、何れかが始まることに変わりは無い。 随分と待たされていた殺意は、とうに炸裂の臨界点を越えていたのだから。 斯くして、此処までの一切が茶番であった。 合切が児戯であった。 遭遇、別れ、挑む決断、再会の決意。 それら全てが余計なモノだった。 くだらない。 つまらない。 仕様もない。 少なくとも彼にとっては、500メートル先で交わされていたやり取りなど、 退屈凌ぎの三文劇代わりにすら為りはしないだろう。 開戦に際しての前準備など、彼にはたったの一言で事足りたというのに。 「――――さァ、やろォか」 この世全ての悪と、この世唯一の正義たる彼は、笑う。 口元を喜悦に歪め。 その胸に殺戮の衝動を抱き。 されど心は、最強たる矜持を纏いて、 「ゲームスタート<皆殺>の時間だぜェ? ぞンぶンに踊れよ三下ァ!!」 いま、地を蹴りし一つの殺意が、ラストゲームの開幕を宣言した。 【White Side--Start / 羅刹舞踏編・開幕】 時系列順で読む Back 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(後編) Next 開幕乱世・無頼 投下順で読む Back 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(後編) Next 開幕乱世・無頼 291 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(後編) 天江衣 303 crosswise -white side- / ACT1 『PSI-missing』(1) 291 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(後編) グラハム・エーカー 303 crosswise -white side- / ACT1 『PSI-missing』(1) 291 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(後編) 阿良々木暦 303 crosswise -white side- / ACT1 『PSI-missing』(1) 291 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(後編) 両儀式 303 crosswise -white side- / ACT1 『PSI-missing』(1) 291 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(後編) 枢木スザク 303 crosswise -white side- / ACT1 『PSI-missing』(1) 294 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(後編) インデックス 303 crosswise -white side- / ACT1 『PSI-missing』(1) 294 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 下-(後編) ディートハルト・リート 303 crosswise -white side- / ACT1 『PSI-missing』(1) 286 覚醒ヒロイズム 一方通行 303 crosswise -white side- / ACT1 『PSI-missing』(1)
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386 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/10(火) 02 14 42 ID pu7O425c マリアンヌ「って、あなたたちりっちゃんのお見舞いはどうしたのよ」 唯「い、いやぁ…いざ打ち明けようと思ったら気まずくって…」 かじゅ「うむ…あれだけ苦労させておいて、実はかまかけただけでしたというのは…」 マリアンヌ「だからっていつまでも黙ってるわけにはいかないでしょう。ほら、みんな来なさい」 νHTT一同「は~い…」 マリアンヌ「さてと。……?何だか騒がしいわね」 暴れちゃ駄目…! もう点滴も終わったからいいだろ!拘束具を解いてくれよ!――こうなりゃ… ズガガガガ! 真・豆鉄砲で拘束具を破壊した…!?修理が終わっていたの? ガチャッ 律「へへへ…これで私は自由だ――って」 マリアンヌ「何やってるの、りっちゃん」 律「マ、マリアンヌさん!それにみんなも!?」 唯「り、りっちゃん!その…」 律「え、えと、あの…」タジタジ 紬「りっちゃん聞いて!この前りっちゃんの練習不足を責めたけど…あれは嘘だったの!」 律「…はぁ?」 あずにゃん「確かにちょっとリズムがおかしかったりした場面もありましたけど、そこまで律先輩の演奏酷くなかったです」 プリシラ「でも、ほら…りっちゃん最近合同練習場に顔出してくれてなかったじゃん。だから、どうにかして来てもらおうと思って」 かじゅ「みんなではめるような真似をしてしまったのだ。すまなかった」 律「何…」 唯「ごめんね!りっちゃん、騒動続きで疲れてたんだよね。休む時間が欲しかったんでしょ?なのに私達、勝手なことを…」 律「…」ハァ 律「確かに私も練習不足だと思ってたよ。だから申し訳ないとも思ったし、反省して練習に打ち込んだんだ。ホントにみんなの足を引っ張ってたと思う。ごめん」 紬「りっちゃん…」 律「でも、でもな……」 律「ついて良い嘘と悪い嘘があらあああああああああぁぁ!!」ビエエエェ 唯「あっ!りっちゃん待っ――」 ガチャッ アーニャ「…逃がさない」ゴゴゴ 梓「アーニャ!?ってか、何そのライフルみたいなの!何するの!?」 バシュッ 律「うっ☆」ドサッ 唯「りっちゃああああああああああん!!」 紬「…麻酔銃ね。でもそれ人に向けて撃って良かったの?」 アーニャ「治療中に脱走するのが悪い」 プリシラ「キャスターさんにばれたら殺されるかもよ」 かじゅ(本当に踏んだり蹴ったりだな、律…)
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【けいおん!】出典の支給品 ギブソン・レスポール・スタンダード(ギー太) 阿良々木暦に支給。 2008年に仕様が大きく変更された。例としてゴトーのクルーソン・コピーだったチューナーがグローバー製に変更され、裏のパネルがシースルー化され、内部構造が見える ようになった。ボディに空洞が設けられ、テールピースはロッキング・トーンに変更された。 これにより従来のモデルよりも軽くなり、またテールピースが弦交換の際に落ちるのを防げるようになった。ストラップ・ピンにはダンロップ製のロックピンに変更され、 ジャックにはノイトリックを採用。これによりシールド抜けを防止。さらにディープ・ジョイントを採用し、サステイン向上を図っている。 平沢唯の所有物。普段から服を着せたり添い寝したりと可愛がられている。 メイド服 上条当麻に支給。 黒のストッキング、純白のエプロン、メイドカチューシャ、さらに専用の靴まで用意されている。残念ながらエフェクトはオミットされているため、もえもえきゅんっ!(以下、MMQ!と記述)は使用不可。 秋山澪用にカスタムされているため、一部の女性(男性)が着用すると胸部に著しい空間が生まれてしまうがそこはご了承願いたい。 そもそもメイド服(メイドふく)とは、メイドの仕事着、またはそれを模して作られた女性用の衣装を指す俗称である。 かつて19世紀末の英国に実在した家事使用人やハウスキーパーたちが着用した、特定の傾向の範囲内のエプロンドレスを、現代日本(の特にサブカルチャー的文脈)においてはもっぱらこのように呼ぶ。 本来の女中としてのメイドの仕事着は日本では「お仕着せ」と呼んでいた。 現在、一般に「メイド服」と呼ばれているものは、黒または濃紺のワンピース、フリルの付いた白いエプロンを組み合わせたエプロンドレスに、同じく白いフリルの付いたカチューシャの組み合わせが基本である。 今回はさらに黒のストッキングと専用靴を追加装備し、さらに『メイドらしさ』を追求した。 このタイプのメイド服は、19世紀後半の英国においては本来午後用のものであり、午前中はプリント地の服に白いエプロンと、帽子を着用するのが本来の姿であった。 元来、メイド服というものは存在しなかったが、「貴婦人が連れ立って歩いていたら、後ろを歩く女性(メイド)に声をかけてはいけない」というマナーがあったために、 女主人とメイドを明確に区別するために必要とされた経緯がある 現代の日本ではもっぱらウェイトレスの制服やコスプレ用衣装などとしてフレンチメイド・タイプ(レザー製品を着用するボンデージ・ファッションの一種)をアレンジしたものを中心に用いられ、 家政婦などが実際に着用することは稀で、中にはメイド服でコスプレしたスタッフを派遣することを売りとした家政婦・ヘルパー等の人材派遣業も存在するが、これは特殊な例だと言える。 コスプレ衣装専門店で、「メイド服」として売られているものの大半は、フリルやレースなどの過剰な装飾がなされたために仕事着としての機能が失われているものも少なくない。 一方で、本職の家政婦が通常の仕事着として扱う場合は、華美(派手)さを排し機能性を追求したシンプルなものを着用する場合が多い。 (以上、Wikipediaより 都合により一部省略・改変) あずにゃん2号 上条当麻に支給。 梓や憂の友達の純ちゃんが飼っている黒猫。 番外編において梓が純ちゃんからこれを預かり、その際勝手に「あずにゃん2号」と命名した。 田井中律のドラムスティク 伊達政宗に支給。 何の変哲もないドラムスティック。 さわ子のコスプレセット キャスターに支給。 桜が丘高校の音楽教師で吹奏楽部兼軽音楽部の顧問山中さわ子の所有するコスプレセット。 作中に登場した様々なコスプレ用の服が靴下や下着、香水やら髪留めまで込みで揃っている。 しかし何故かメイド服が一着欠けている。 紬のキーボード 八九寺真宵に支給。 何の変哲もないキーボード。 FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bass 東横桃子に支給。 秋山澪愛用のレフティベース。 ティーセット 琴吹紬が音楽室に持ち込んでいるティータイムセット。 結構な値段の代物らしい。 桜が丘高校軽音楽部のアルバム 田井中律に支給。 桜が丘高校の軽音楽部である5人のアルバム。 軽音部のラジカセ ファサリナが現地調達。
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傷んだ赤色 ◆kALKGDcAIk 先ほど負った額の傷を治療しながらも、サーシェスの笑みは止まらない 最初に戦った片倉小十郎。先ほど遭遇した魔女。 予想もしていなかった力を持つ奴ら。 流れる血は赤いのか。 心臓を潰せばちゃんと死ぬのか。 死ぬときはどんな表情を浮かべるのか。 憤怒か。 絶望か。 恐怖か。 後悔か。 分からないことだらけ。だからこそ面白い。 やりたいことは沢山ある。 群れる弱者を絶望に突き落とす。 驕れる強者を屈辱に陥れる。 戦争を知らぬ無垢なる民間人に殺しの味を教えるのも面白い。 ここでしか楽しめない至高の娯楽が待っている。 傷の治療を終えたサーシェスは歩き出す。 獲物を求め、選んだ方角は東だ。 この方角に意味などない。ただの勘。 だが、サーシェスは知っている。 戦場ではこういった勘だって、案外馬鹿に出来ないという事を。 待ち受ける戦争に心躍らせ、サーシェスは彷徨う。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「説明はこんなところだ。何か質問でもあるか?」 「質問って言われても、その……」 「別に一度の説明で理解出来るなど期待していない」 「ア、アンタねぇ」 魔術なんて根拠のないオカルト話だと思っていた。 アーチャーが言うには魔術にもちゃんとした理論があるらしいが、説明されてもチンプンカンプンだった。 学園にいる頃の私なら、話されたとしても本当のことだと受け入れられなかったかも知れない。 でも、こんな状況じゃどんなオカルトだって真実だって受け入れられてしまいそうだ。 「質問がないなら、もう話は終いだ。さっさと寝ろ。まだ6時までは時間がある」 「何よ、子ども扱いして。べ、別に眠くなんてないわよ」 「なら、目を瞑っているだけでいい。静かにしていろ」 「わかったわよ!でも横になるだけだから、別に寝たりしないから!」 しぶしぶ空いていたベッドに横になる。 横になっても、考えることが多くて眠れるはずなんてない。 そう思った。 あれ?何か頭がボーっとする。 ……私もしかして疲れてた? 大した運動もしてないはずなんだけど。 眠くないとか言い張っちゃって、私カッコ悪いなぁ。 そんなこと考えながら、私の意識は深く沈んでいった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「強がっていても所詮は学生。無理もないか」 5分も経たずに眠りについた美琴を見て、皮肉混じりに呟く。 本来、このような殺し合いとは無縁な場所に生きる人間。 やはり、この環境が与えるストレスは本人の予想以上に精神をすり減らしたのだろう。 これから先に待ち受ける過酷さを考えれば、今眠ることは正解だ。 ―――先ほどの会話。気になることがあった。 魔術の神秘は守られるべきもの。一介の学生が知らないのは当然であり、何ら驚くことではない。 しかし気になるのは、御坂美琴という少女が超能力者であること。 話の流れで知った、学園都市という大規模な超能力開発施設。 超能力そのものはアーチャー自身も知っている。 だが己の知る超能力と齟齬がある。 そもそも、超能力とは生まれ持った才能に近いものだ。 開発という形で得られるようなものではない。 「やはり魔法か、それに近い力を持つ者がいるのは確定的か」 この殺し合いの参加者は平行世界。またはそれに類する異界から集められた。 それが御坂から得た情報からアーチャーの立てた仮説であった。 もっとも根拠は薄い。 出会った参加者は明らかに自分と同一の世界から連れてこられたと思われるライダーを除けば3人だけだ。 さらに他の参加者と接触しなければ核心に至ることは出来ないだろう。 さらにもう一つ。アーチャーには気になることがあった。 最初に刃を交えた黒い魔術師のことである。 奴は自分の知っている魔術師像に何ら反するものではなかった。 主催と繋がっていることが本当ならば、その目的は大体予想出来る。 根源への到達。 全ての魔術師が抱く悲願。 自身が関する聖杯戦争も、本来はこの願いを成就させるためのもの。 この殺し合いでいかに根源へと辿り着こうとしているのか。 殺し合いそのものが根源に至るための儀式に一環になっているのか。 根源に至ることが目的なのか。それともその先に望むものがあるのか 無視できない事には変わりない。 やはり情報が足りない。 今後の方針をどうするか、目的を果たすためにどのように立ち回るか。 最善の判断を下すには、 全ては、 ―――衛宮士郎という歪みを抹消する為に。 そこまで思案に至ったとき、アーチャーの思考は無意識に切り替わった。 感じる。 かつて、数多の地獄で経験してきたこの感覚。 あえて隠さず、まるで誘うように。 戦争を愛し、戦争に生きるものが醸し出す殺意だ。 「真剣な顔だな。どうした?」 いつからだろう。先ほどまで眠っていた女、C.C.が目を覚ましていた。 「少し外に出てくる。お前はここで大人しく二度寝でもしていろ」 その言葉でC.C.も今の状況が把握できたのだろう。 「物騒な客か。確かにそういう輩はお前に任せたほうがよさそうだ。なら、お言葉に甘えてもう一眠りさせて貰うよ」 返事はせず、C.C.の視線を背中に受けながら、アーチャーは音を立てず、静かに外へ出て行った。 【E-5/市街地 一軒家/一日目/早朝】 【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュR2】 [状態]:体力枯渇(小)、左の肩口に噛み傷(全て徐々に再生中) [服装]:一部血のついた拘束服 [装備]:オレンジハロ@機動戦記ガンダム00 [道具]:なし [思考] 基本:ルルーシュと共に、この世界から脱出。 不老不死のコードを譲渡することで自身の存在を永遠に終わらせる――? 1:外のことをアーチャーに任せる。 2:ルルーシュと合流する 3:利用出来る者は利用するが、積極的に殺し合いに乗るつもりはない [備考] ※参戦時期は、TURN 4『逆襲 の 処刑台』からTURN 13『過去 から の 刺客』の間。 ※制限によりコードの力が弱まっています。 常人よりは多少頑丈ですが不死ではなく、再生も遅いです。 【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】 [状態]:睡眠中、腹に打撲、疲労(小) [服装]:常盤台中学制服 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式 誰かの財布(小銭残り35枚)@???、ピザ(残り63枚)@コードギアス 反逆のルルーシュR2 [思考] 基本:人を殺したくはない。 0:睡眠中 1:上条当麻、白井黒子の安否が気になる。一方通行は警戒。 ※アーチャーからFate/stay nightの世界における魔術の話を聞きました。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 民家の前から15m程。その男はいた。 「そっちから来てくれるとは嬉しいなぁ」 「やはり血の匂いに飢えた狂犬か」 「へっ、いいねぇ。その目、殺る気満々って感じじゃねぇか!」 雰囲気だけでサーシェスは目の前の標的が只者でないことを理解した。 相手は戦場を生き抜いてきた生粋の戦士。 「貴様のような奴には微塵の容赦もない。さっさと殺してやる」 「はっ、言ってくれるじゃねぇか!テメエもまた殺し合いのしがいがありそうだ」 アーチャー。 殺しを否定し、争いを憎み、それ故に戦場に身を置いた男。 人々を救おうとし、その先に絶望に辿り着いた男。 地獄と化した地で惨状がそれ以上広がらぬようその場にいた者達を切り捨てる掃除屋。 アリー・アル・サーシェス。 殺しを肯定し、争いを愛し、それ故に戦場に身を置いた男。 人々を虐殺し、その先に快楽を見出した男。 戦いの主義主張には一切興味が無く、ただ金と戦場のスリルを求めて動く戦争屋。 戦場における人の業を理解しつくしている二人。 故にお互いを深く理解し、故に決して分かり合えない。 サーシェスは無言でガトリングガンを構える。 「――――投影、開始」 対してアーチャーの得物は愛用の夫婦剣、干将・莫耶。 戦場にて生と死を見続けてきた男達の戦いが始まる。 【E-5/市街地 一軒家前/一日目/早朝】 【アーチャー@Fate/stay night】 [状態]:健康 魔力消費(小) [服装]:赤い外套、黒い服 [装備]:干将・莫耶@Fate/stay night×1(2時間後に消滅) [道具]:基本支給品一式、不明支給品×3 [思考] 基本:過去の改竄。エミヤシロウという歪みを糺し、自分という存在を抹消する 1:アリー・アル・サーシェスを殺す 2:情報を集めつつ、士郎を捜し出し、殺害する 3:士郎を殺害するために、その時点における最も適した行動を取る 4:荒耶に対し敵意 [備考] ※参戦時期は衛宮士郎と同じ第12話『空を裂く』の直後から ※凛の令呪の効果は途切れています ※参加者は平行世界。またはそれに類する異界から集められたと考えています。 【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】 [状態]:疲労(小)、腹部に打撲の痣、額より軽い出血(止血済み)。 [服装]:パイロットスーツ [装備]:ガトリングガン@戦国BASARA 残弾数75% 信長のショットガン@戦国BASARA 8/8 果物ナイフ@現実 作業用ドライバー数本@現実 [道具]:基本支給品一式、 ガトリングガンの予備弾装(3回分) ショットガンの予備弾丸×78 文化包丁@現実 [思考] 1:アーチャーを殺す。 2:この戦争を勝ち上がり、帝愛を雇い主にする。 3:周辺を見て回る 4:殺し合いをより楽しむ為に強力な武器を手に入れる。 5:片倉小十郎との決着をいずれつける。 【備考】 ※第九話、刹那達との交戦後からの参戦です。 ※G-5にナイフ@空の境界が落ちています。 ※ガトリングガンは予備弾装とセットで支給されていました。 時系列順で読む Back こんなにロリコンとシスコンで意識の差があるとは思わなかった……! Next 偽物語 投下順で読む Back こんなにロリコンとシスコンで意識の差があるとは思わなかった……! Next ポーカーフェイス(Poker face) 062 アカイイト C.C. 102 こんな俺に世界を守る価値があるのか 062 アカイイト 御坂美琴 102 こんな俺に世界を守る価値があるのか 062 アカイイト アーチャー 102 こんな俺に世界を守る価値があるのか 065 Murder Speculation Part1 アリー・アル・サーシェス 102 こんな俺に世界を守る価値があるのか
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黄昏の破壊者 ◆L5dAG.5wZE 「トレーズ・クシュリナーダ……!?」 「刹那・F・セイエイ……!!」 戦いを駆逐するべく戦場に踊り込んだ刹那・F・セイエイと本多忠勝。 追われていたらしい人物の名はトレーズ・クシュリナーダ。刹那が知る、警戒する名の男。 驚愕する刹那の傍を忠勝が駆け抜ける。 相対するはバーサーカーのサーヴァント、 最強同士の三度目の激突。 止めても無駄かと、刹那はただ一声をかける。 「ホンダム! このトレーラーを!」 打てば響く。 そんな要領で忠勝が足を止めぬままに拳を振るい、横倒しになっていたトレーラーの上部を叩き正常な形へと復帰させる。 その結果を見届けることもなく忠勝は通りの向こう、強敵の待つ地へと恐れもなく踏み込んでいく。 巨人が邪魔は要らぬとばかり後退していく。一騎討ちを望んでいるのだろう。 忠勝もまた、あの敵手に抗し得るのは己のみと悟っている。遅れることなく後を追う。 (まだ奴の不死の秘密は解けていないというのに……! だが、こうなれば戦うしかないか……!) 見たところ巨人はやはり全快している様子。 加えて携えるは刹那の胴回りをも軽く上回るほどの太さを持つ柱。 あんなもので殴打されれば骨が折れるどころではない。まさしく粉微塵に砕け散ることだろう。 対抗できるのはこの島の中でもおそらくただ一人――そう、戦国最強の武人しかいない。 それを知っているからこそ、忠勝は刹那に何を言わせる間もなく自ら死地に飛び込んでいったのだ。 だが、敵手に比べ忠勝は消耗が激しい。連戦の疲労もあり、不利は否めないところだ。 ドアハッチを開き、トレーズが地に降り立つ。同時に刹那が突き付ける、サブマシンガンの銃口。 振り向き確認する。割れた窓ガラスから銃が飛び出ていたのだ。 トレーズが身に佩いている刀は無事だったものの、鼻先に銃口があっては抜刀する時間もない。 「……武器を捨てろ」 油断なく構えられた銃口はトレーズを捉えて離さない。 トレーズが鞘ごと刀を取り外し放り捨て、頭上へと両腕を掲げる。 「こんなにも早く君と再開できるとはな。できれば……まだ、出逢いたくはなかったよ」 「俺もだ。言ったはずだな、次に会う時に考えが変わっていなければお前を殺すと。 この短い時間では……期待するだけ無駄なのだろうな」 「無論だ。私はまだ、敗者となってはいない。だから君が私に教えてくれ……私がいったい何者なのかを!」 トレーズが捨てられた刀へと目をやる。意識がそちらへの警戒に流れた刹那の一瞬の隙をつき、 「ファングッ!」 停止していた機動攻撃端末・GNファングが、トレーズの呼び声に応え呼び戻される。 GN粒子の赤い輝きが収束し、二人のちょうど中間地点へと着弾した。 「くっ……ファングだと!? スローネの……!」 「気を抜くな、刹那・F・セイエイッ!」 爆風に転がった刹那の眼前に、陽光を弾く白刃が滑り込んでくる。 とっさにサブマシンガンを掲げる。 ギィン、と甲高い音を立ててトレーズの刀は押し留められた。 膝立ちのまま歯を食い縛る、刹那。少しでも角度が狂えば銃ごと両断されそうだ。 「トレーズ、貴様!」 「無粋な真似をして済まないな。安心したまえ、君との決闘にあのようなモノは必要ない。 この刀こそが私の意志、決意だ。さあ……私は選んだ。君も選べ、自らの進むべき道を!」 「……ッ!」 圧し掛かってくるトレーズの圧力に耐えかね、指が引き金を引いた。 でたらめに発射された銃弾がトレーラーの装甲面に跳ね回りあらぬ方向へと飛び去っていく。 トレーズが身を引いた一瞬を見定め刹那は後方に跳んだ。転がりながらも軽機関銃は手放さない。 立ち上がった刹那をトレーズは追撃するでもなく悠然と待っていた。 耳につけていたイヤホンマイクを外し、懐へと入れるトレーズ。 「この状況……たとえ俺を殺したところで、貴様もまたあの化け物に殺されるだけだ。それがわからない訳でもないだろう」 「私にとって死は恐れるべきものではない。だが無為に死ぬことは我慢ならない……。 私のような人間は、力によって敗れなければならないのだ。それをもたらすのは君であろうと、あの異形の戦士であろうとさして違いはない。 だが、私は君の理想を知っている。対話こそが、変革を誘発する――君はそう言った」 ヒュン、と刀を一振り。 フェンシングのように、片腕で構えこちらに向ける。 「しかし私の見たところ、君はそれを成すことを自らに任じてはいない。憧れている、と言ってもいい。 君の知る誰かがそれを成してくれると信じているからこそ、君はその障害となるモノを討ち果たすだけの剣であろうとしている――違うかね?」 その瞳は語らずともこう叫んでいる。 私もまた、君の理想の妨げとなるものだ、と。 「だからこそ、私は君に決闘を申し込む。 君の理想とする世界に私の居場所はない。私は戦う意志を捨てられない。故に、君と私は同一の世界に在ってはならない存在だ。 君が君の理想を貫かんとするなら――この私を排除しなければ、先に進むことはできない」 「……トレーズ・クシュリナーダ」 刹那は、男に銃を向ける。 しかし引き金は引かない。まだ言うべきことが、ある。 固く目を閉じる。あの戦いを、全ての終わりと始まりの日を思い出すように。 「お前によく似た男を知っている。俺が……ガンダムが歪め、ガンダムとの戦いの中に己の存在意義を見出した男だ」 ガンダム、という言葉を口にしたとき、トレーズの眉が僅か、顰められる。 刹那は構わず続ける。 「その男もまた、今の貴様のように己のエゴに――歪みに呑み込まれ、俺に戦いを挑んできた」 「ほう。それで?」 「俺は……ガンダムには責任がある。世界の憎しみと真っ直ぐ向き合う、受け止めなくてはならないという責任が。 戦うことが、奴に、そしてお前にとっての救いとなるのかどうかはわからない。だが」 刹那が目を開く。その瞳は、目映いばかりの金色に輝いていた。 「だからこそ、トレーズ・クシュリナーダ。決闘の申し出……受けよう。俺がこの先もガンダムであり続けるために」 トレーズが目の錯覚かと注視したときには、もうその瞳は元の煉瓦色に戻っていた。 代わりに浮き出ているのは清冽で迷いなき戦意。 それでいい、とトレーズは刀を握る腕に力を込める。 「……では往くぞ、刹那・F・セイエイ!」 「来い、トレーズ・クシュリナーダ! 貴様という歪み――この俺が狙い撃つッ!」 宣言と共に、二人の男は駆け出した。 ◆ 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■――!!」 「…………………………………………………ッ!!」 咆哮し、激突する。 噛み合う斧と鎚がギャりギャリと火花を散らし、震える大気が風を逆巻かせ、吹き抜ける。 両断せんとする戦国最強の大戦斧を、狂戦士の戦鎚が押し留める。 鉄と木という材質の差か、斧刃は食い込みはするもののあまりの質量に芯まで到達できず。 バーサーカーが鎚をひねる。ギシギシと食い込んだ刃が軋み、忠勝の剛力との板ばさみに悲鳴を上げた。 このままでは武器を破壊されると見た忠勝は自ら斧を握る手を離す。 「…………………ッ!」 勢い余って体勢の崩れたバーサーカーのがら空きになった腹目掛け、忠勝は巨体を旋回させ渾身の蹴りを放つ。 軸足が舗装された路面を抉り、大地を揺らすほどの衝撃と共にバーサーカーの腹筋へと突き刺さった。 強靭なる筋肉の防壁を、同等以上の硬度を持つ剛脚が侵略する。 たまらず苦悶の声と共に身を折ったバーサーカーの手から鎚が零れ落ち、その超重量故に砕けた大地へ沈み込んだ。 しかし忠勝は獲物を拾うことを選ばず、拳を握り込み伏せる敵手の顔面へと迸らせる。 豪腕が唸り、バーサーカーの頭部が弾かれたように跳ね上がった。 二度、三度、四度――もはや数えることもままならないほどの高回転のラッシュ。 腕のガードの上からでも確かな手応えが伝わってくる。 バーサーカー自身の腕により視界が閉ざされたと看破した忠勝は、踏み込み一撃を放つとともに背のスラスターを点火。 押し込むように巨人の体躯を後退させ、脚を止めず跳躍した。 勢いを活かし、両手を組んだ鉄槌で一気に畳み込まんとする。 「■■■■■■■■■■――!!」 だが大英霊のサーヴァントもまた、いいように弄ばれたままでいる道理なし。 狂気溢れる瞳がギラリと光り、地を這うように身を伏せ振り下ろされた拳をかわし、未だ宙にある忠勝の足を掴み取った。 拮抗は一瞬、大地に足指が食い込むほどにがっしりと立つバーサーカーに軍配が上がる。 空中から引きずり下ろされ、轟音と共に戦国最強の巨体が地へと叩き付けられた。 間髪入れずその上に飛び乗ったバーサーカー、先のお返しとばかり馬乗りの体勢で両腕を振り上げる。 両腕に鈍く残る痛み。それは取りも直さず、この鎧武者が己に匹敵する強者とだいう証左。 わかっていた。それはわかっていたこと。 そして二度に渡る果たし合いで手を抜いたつもりはなく、それでも仕留められなかった。 だからこそ、この三度目の邂逅は天の采配。 真に最強たるべきはどちらか。 この戦にて、それを確かめる! 「■■■■■■■■――!!」 「…………………………!!」 録画した映像を巻き戻すように、先刻とは真逆の光景が繰り広げられる。 バーサーカーの振り下ろす嵐のような鉄拳を、見上げる忠勝の両腕が盾となって受け止める。 一閃、二閃と結果を見届けることなくバーサーカーは拳を撃ち出し続ける。 少々まともに当たったところでこの強敵は下せないことはすでに証明されている。 ならば、どうする? 決まっている―― 「■■■■■■■■■■■■――!!」 跡形もなく粉砕してから、ゆっくりと首を改めればいい。 ドドドドドドドド、と速射砲のような拳が生み出す衝突音が連続する。 音が一つ響くたびに舞い上がる噴煙、そして大小様々なコンクリートの破片。 沈み込む。 工事現場のプレス機のように、拳が至る喫水線が深くなる。 殴られ続ける忠勝の身体を中心にゆっくりと小規模なクレーターが形成されていく。 忠勝の腕の装甲が凹み、削られ、形を変えていく様をバーサーカーは観察する。 それでも、一度として急所たる顔面への一撃を許しはしない。 狂化している己と違い、敵は「守」に長けていると睨む大英雄。それでも選ぶのはひたすらに「攻」。 堅牢なる盾が立ち塞がるならば、それを上回る力を以て叩き潰すのみ。 鉄のカーテンのごとき忠勝の豪腕に自らの腕を絡ませ、押し開く。 万力のような力で抵抗されるも、僅かずつだが腕の隙間は広がっていく。 紅い瞳が、見えた。 視線が奴の瞳を捉える。敵手もまた、真っ向から睨み返してくる。 それでこそ、だ。 バーサーカーは大きく身を反らす。 「■■■■■■■■■■■■■――!!」 「…………………ッ!」 そして、反動を乗せた渾身のヘッドバット。 衝突の瞬間、どちらも目を閉じはしなかった。掲げた意地の張り合いは、互角。 衝撃は忠勝の五体を通じて地面へと伝播し、ついに耐久限界を越えた路面が崩壊した。 舞い上がり、積み上げられた瓦礫が雪崩のように崩れ落ち、中心点である二人の姿を覆い隠していく。 飛び出す影は一つ。地に降り立つは狂戦士のサーヴァント。 直後、土砂によって鎧武者の姿は完全に見えなくなった。 眉間から血を流し、拳もまた骨の形が幾分変わるほどに傷めている。 蹴られた腹部は鈍く疼き、だがそれでも、両の足で立っているのはバーサーカーただ一人。 手応えは、あった。 ついに強敵を下した余韻に浸ることはなく、近しい獲物を逃すなと本能が駆りたてる。 辺りを見回し、落とした鎚の位置を確認。鎚に加え斧も手に入る。 さきほど確認した金髪の男と、数刻前に交戦した黒髪の青年を屠るべく足を向けた。 その足を、掴まれる。 地面から突き出した無骨な腕によって。 「…………ッ!」 「■■■■――!?」 もう片方の足を叩き付けるべく、振り上げる。 だが足首を掴んだ腕はそれを待たず、これもまた先刻の再現と言わんばかりに力任せに引っぱられた。 軸足のバランスを崩され、バーサーカーの後頭部が遠心力を乗せて大地へと落下。 だが足を掴む手は離れることなく、その先にある鎧武者の本体が土砂を吹き飛ばしつつ浮上した。 兜は断ち割られ、全身の鎧も見る影なく砕かれて。しかしその燃え滾る戦意には些かの衰えもなし。 バーサーカーが捕縛されていない足で忠勝を蹴り付ける。だが、背をついた姿勢で放った蹴りは武者の片腕により容易く弾かれた。 その煽りを受け一瞬身体が泳いだ隙を逃さず、忠勝は両腕でバーサーカーの片足を握り直す。 そして、まるで百姓が畑から野菜を掘り出すように、 「…………!」 引っこ抜いた。 地に伏せていたバーサーカーの身体が180度の弧を描き、忠勝を挟みちょうど反対側の路面へと思い切り叩き付けられた。 総重量300キロを超える空前絶後のハエ叩き。 ゴバッ、といわく形容しがたい衝撃音が鳴り、その最初の栄誉を授かった道路は哀れにも微塵に砕け、粉となって舞い散る。 当然、衝撃を顔面、胸、腹、全身で受けたバーサーカーのダメージたるや想像を絶するものであった。 バーサーカー自身の強固な肉体により命を奪われることはないものの、この場合はそれが逆に悪い結果を生む。 衝撃への耐性を得ることも叶わず、バーサーカーの身体にはダメージだけが残った。 骨がバラバラになるような感覚。痺れた身体は意志が下す命令を拒否し、続く忠勝の行動を妨げることなどできはしない。 反転した忠勝が「バーサーカーを」振りかぶり、再度のジェットコースターダイブを敢行させる。 バーサーカーにできることと言えば、ただ痛みを覚悟することだけ。 「………………………………ッ!!」 鬼神のごとき形相で、戦国最強の武人は辺り一帯の全てを蹂躙し始めた。 倉庫、電柱、建材、土嚢。 ありとあらゆる目に付く物を、例えて言うならまさしく「人柱」そのものでめったやたらに打ち砕いた。 水が湯に変わるほどの時間を経ることもなく、小型の竜巻が荒れ狂ったような惨状が広がっていく。 掴んだ足首からの抵抗が弱まった。 ここが好機と見て取った忠勝は勝負に出んと敵の両足をホールド、スラスターを全開にしてその場で旋回を始める。 暴虐が止んだとなんとか地を掴み反撃に出ようとしたバーサーカー、だが伸ばした手は高速で過ぎていく路面を捉えられず。 路面に忠勝が撃ち込んだ両の足がドリルのように回転し深く突き刺さる、そしてそれ以上の速度でバーサーカーを振り回す。 回る視界。増していくその速度は周囲に何があるのかさえももはや定かではなく。 やがて、バーサーカーの感覚が地が遠くなったことを看破する。 投げられた? いや、そうではない―― 浮いているのだ! あろうことか、自身のみならずバーサーカーを抱えたまま、この戦国最強は高く高く飛翔している! そしてその上昇の間も回転は止まらない。 あまりの速度で掻き回される空気の層が真空を生み、バーサーカーの肌を浅く切り裂き始めた。 やがて耳から音が消え、静寂の世界に至る――発生した本物の竜巻の中心点。 角度を変え、地面に対しやや斜めになったところで、忠勝は片腕を離し径の範囲を広げた。 安定を捨て遠心力を得る。さらに大きく回り出すバーサーカーの巨体。 回転が最高速度に達したと判断したところで、 「■■■■■■■■■■■■■――!!?」 忠勝が手を離し、空高くバーサーカーが「射出」された。 乱回転するバーサーカーの五体。いかに大英雄といえども翼なき身、空にあっては姿勢を回復させることなど到底不可能だ。 目まぐるしく回る視界の中、鎧武者が何かを拾う姿が見える。 何か――あの、大戦鎚。 身の丈3m近い大巨人がこれまた5mに迫る長大な木柱を地に突き刺した。 腕を組み、落下する獲物を待つ戦国最強。 おおよそ最適の距離にまで近づいたと見るや、鎚を引き抜き両手で構え、反身を引いて大きく後方へ振りかぶる。 ここまでくればバーサーカーにも理解できる。 なんとなれば、一度目の対決ではこの状況から敗北を喫したのだ。 ――バーサーカーのサーヴァントが、空中戦に置いて本多忠勝に勝る道理なし。 この後の展開は、つまり―― 「………………………………ッッ!」 名付けるならば、バスターホームラン――! 音速を超えた証に歯切れのいい音を空中で鳴らした戦鎚は、衝撃に自ら砕けながらもバーサーカーの頭部を空の彼方まで吹き飛ばすことに成功する。 テコの原理でその場で回転するバーサーカーの首から下。 だが、本多忠勝は止まらない。 半分ほどになった鎚を捨て、今度は斧を引き抜いて身体ごと首なしの骸へとくれてやる。 腹のあたりで真っ二つ。 返す刀で上半身、心臓の位置を狂いなく斬り裂き肉塊が三つに。 だが、それでも本多忠勝は止まらない。 一度目は腹に大穴を空けた。 だが、立ち上がった。 二度目は脳を掻き回し、またその容れ物ごと粉砕した。 だが、立ち上がった。 日の元の国ではついぞ聞かないあやかしの類か、この戦士は何度討ち果たそうとその都度傷を癒し立ち上がってきた。 平和を求める少女を救えず砂を噛む思いで撤退した後、忠勝はずっとこの強敵を屠る方法を考えてきた。 相棒たる青年は倒す方法を見つけるため情報を集めると言った。 しかしそんな余裕はなく、また武人の矜持が許しはしない。 今持てる力のみで、忠勝ただ一人の力でこの業敵を討ち果たさずして何が『戦国最強』か。 忠勝の出した答えは二つ。 どちらも単純にして明快、だが行うは難きこと――他ならぬ、この本多忠勝以外には! 一つ、黄泉返るたびに何度でも滅殺すること。 このような争いに首輪をつけ送り出されているということは、奴は決して真なる不死の存在ではないと、相棒と見解が一致している。 が、具体的に何度殺せば限界が訪れるのか、それは定かではない。 だからこそ、この案は保留。 忠勝が選び実行したのは二つ目の案。 過去いずれの場合もこの魔性のモノは欠けた身体を再生して立ち上がってきた。 つまり、人体の一部分でも残してしまえば再生するということ。 であれば話は簡単だ。 すなわち――再生など叶わぬほどに五体全てを斬り刻み打ち砕き、塵も残さず魂までも葬り去る! 「………………………………………………………………………………………………ッッッッ!」 目にも止まらぬとはまさにこのこと。 旋回し回転し舞い踊る大戦斧が、餌を与えられた猟犬のように狂戦士の肉体へ喰らいつく。 顔はない。しかし首はあるので首を刈る。 首を落とさば次は二つに分かれた胴体の内片方、左腕を根元から斬り飛ばす。 それが終われば右腕を。ついでに右胸部をも二つに捌く。 斧を寝かせ、邪魔な肉塊を乗せ空中へ跳ね上げる。 ようやっと爪先が地についたバーサーカーの下半身を、容赦なく蹴りつけた。 目線より少し上、太い足が二本。 その中間を刃が駆け抜け、左と右の生き別れ。 十字に切って、四つに分ける。 頭上で斧を回転。超人ミキサーとでも表現しようか、高速鋭刃が四つから八つ、八つから十六と肉片を量産していく。 落ちてきたバーサーカーの「元」両腕・胴体もまた巻き込まれ、血風が混じる赤茶色い嵐として吹き荒れる。 充分なほど細かく砕いた、と確信した忠勝は、戦斧をその形状のままの用途――すなわち軍配、烈風打ち出す大団扇として横薙ぎに振るった。 三度、天へと舞い上がるバーサーカーであったモノ。 斧を放り出し、再び戦鎚を手に今度は忠勝も跳び上がった。 「…………………………………………ッッ!」 肉塊がそれぞればらばらになって飛び散る前に、一塊りのまま。 豪腕の生み出す再びのフルスイングが、狂戦士の名残りを跡形もなく吹き飛ばす。 頭と身体、それぞれ別の方角に。 見る影もなく、残す影もない完全な消失。 地に降り立った本多忠勝は、今度こその勝利を確信して膝をついた。 とたん、全身至る所から噴き出す蒸気。痛む身体の限界を越えてオーバーヒートした証。 連戦による疲労、征天魔王に刻まれた傷、バーサーカーの豪腕による全身各所のダメージ。 常人ならばとうに死に至ってもおかしくないほどの痛みを背負い、しかし意地と信念で無茶を通したがゆえの失調。 思うように動かない身体。だが、忠勝の眼はまだ死んではいない。 こちらは勝利したものの、まだ相棒が戦っている。 忠勝の声は届かないものの、あの金髪の偉丈夫と何事もなく和解したのなら相棒は必ず援護の手を入れてきているはずだからだ。 もちろん忠勝とバーサーカーの戦いに何ら影響を与えることはできないだろうものの、あの青年は忠勝一人に重荷を押し付けることを決して自分に許しはしない――そういう男だ。 そんな相棒だからこそ、共に戦場を駆けるに足るのだが。 とにもかくにも状況を確認するべきかと、忠勝は震える腕を地に落ちた斧へと伸ばす。 だからこそ――下を見ていたからこそ、気付かなかった。 「――――――――――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」 忠勝目がけ落下する、未だ折れぬ狂戦士の殺意に満ちたその瞳に。 忠勝の背を、超高高度からの落下の勢いを存分に生かしバーサーカーが踏みつける、否、踏み砕く。 背面の推進装置、装甲、そしてその中身をも等しく破壊する重爆の一撃。 「…………ッッ!?」 二度目、そう二度目の土潜りを強制体験させられる忠勝。 その上に傲岸と立つバーサーカー。両腕両足心臓に頭、どこをとっても欠損はなく負傷の色もない。 理解の外にある出来事に忠勝の意識が一瞬オーバーフローする。 そこにバーサーカーの渾身の剛脚。視界が黒に閉ざされる。 忠勝は悟る。己が解釈は間違っていたと。 この敵手は、どう殺そうと再生するのだ。だからこそ再生の途中、傷を癒す最中にも間断なく攻勢をかけ限界点まで一気に殺すべきだった。 それに気づかず気を抜いた自身の不覚――! 悠然とバーサーカーは得手の獲物たる大戦斧を拾う。 これがあるなら折れた鎚を使うまでもない。 多少刃毀れがあれど狂戦士が振るうにあたり問題はない。それを確認したバーサーカーの背後で、巨大なものがぶつかり合う音。 振り返ったバーサーカーの期待通り、鎧武者は立ち上がっていた。 そうこなくては――今度はこちらのターンだと、バーサーカーが一歩を踏み出す。 立ち上がれはしたもののダメージは大きく、忠勝は腕を上げることすらもままならない。 にじり寄ってくるバーサーカーに、忠勝ができたことはただ徹底抗戦の意志を秘めた視線を叩き付けることだけ。 そして、 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――!!」 腰から上を、叩き切られた。 吹き飛んでいく最強の武人の胴部。倉庫群の一角に叩き付けられ、動かなくなった。 残された脚は見事に大地を噛んだまま、見事にも倒れることなく。どこまであっぱれな男であることか。 もはや首を取る必要はあるまい――己がごとき不死の肉体を持っていない限り、立ち上がることは不可能だとバーサーカーは確信する。 そしてそんな輩ではないと、今までの交戦が物語っている。そんな小細工に頼らず、鍛えた自らの技だけで戦う素晴らしき益荒男だということは。 だが、結果は結果だ。 勝利したのはバーサーカーのサーヴァント。 敗北したのは戦国最強の武人。 最強証明は成された。 それ以上の時間を浪費することを良しとせず、バーサーカーは次なる獲物を狩るべく斧を担いで駆け出した。 ◆ 予測される敵の進路へ向けて腰だめに構えたサブマシンガンを乱射する。 しかし孤影は巧みに半壊した倉庫や建材の影に滑り込み、開けた射線にその身を晒すことはない。 刹那は腰に差した拳銃の重みを再確認する。接近されれば次も斬撃を防げるという保証はない。 焦りを加速させるのは、遠方から響く破砕音。 忠勝が向かった先だ。今、相棒は単騎であの不死者へと立ち向かっている。 刹那が駆け付けたところで大したことはできない。だがそれでも、何もせず傍観することなどガンダムマイスターの矜持が許さない。 そして、刹那が彼ら人外の武を誇る者達の闘争に一つだけ介入する方法がある。 他でもない、現在交戦中のトレーズが持つGNファングだ。 砲台としては生身の人間に向けるなど想定されていない、桁外れの火力。充分にあの巨人への脅威たり得るはず。 だが当然のこと、トレーズは大人しく抵抗を止める男ではない。であれば力づくで、ファングを奪取するしかないのだ。 一刻も早くこの難敵を突破し、かつ武装を奪う。 中々に困難なミッションプランであると言えた。 視界いっぱいに黒が広がる。 反射的に迎撃した刹那だったが、直後にそれはトレーズが放り出したマントであると理解した。 黒布を貫いた銃弾はその向こうで倉庫の外壁に着弾し甲高い音を立てる。つまり、命中弾はないということ。 「頂く!」 「くっ……!」 正面に気を取られた隙をつき、トレーズは一気に刹那の懐へと飛び込んできた。 閃いた銀光が刹那の首を狙い迸る。 横薙ぎの剣閃を身を転がすことで避ける。そのまま身体を旋回させ、トレーズの足を払うべく水面蹴りを仕掛けた。 が、足に予想された反動はない。 視界の端で飛び上がったトレーズの足刀が跳ね上がり、刹那の顎をかち上げた。 後ろに引っ張られたように弾かれた刹那を追い、トレーズが踏み込もうとしたその鼻先に突き付けられる拳銃。 引き金を引けばその弾丸は確実にトレーズの脳天を貫く、そんな位置。 足を止めたトレーズもまた刀を前に構え、刹那の構える拳銃を鼻先を触れ合わせる。 刃と銃を間に置き、刹那とトレーズの視線が絡み合った。 「俺は、この島で一人の少女と出会った。武力ではなく対話による協調を全世界単位で行い、戦争を根絶するという理想を持った少女だ」 「……リリーナ・ピースクラフト、か。彼女は……放送で名を呼ばれていたな」 「彼女を知っているのか……俺は、護れなかった。手の届くところにいながら、彼女の命を救うことができなかった。 だが……いや、だからこそ、せめて彼女の遺した理想を成就させてやりたい。 ガンダムに乗る俺が言うのはおこがましいのかもしれない。所詮俺は破壊者だ……だがな!」 拳銃を握る左腕、指を動かしマガジンを排出。 地に落ちる弾倉が一瞬トレーズの目を引き、間を置かず刹那の足に蹴り上げられる。 トレーズの顔面へ飛ぶマガジン。未だその内に数発の弾丸を残し。 そして、薬室にはまだ一発の弾丸が、残っている。 「そんな俺だからこそ、できることもある!」 マガジンを撃ち砕く。 粉々に散る金属片。飛礫となってトレーズを襲う。 たまらずトレーズが腕を交差させ顔面を覆う。 同時に立ち上がった刹那がサブマシンガンを構え直し、トレーズが気配を頼りに刀を突き出すタイミングはまったく同時。 銃弾がトレーズの左腕に喰らいつき、白刃が刹那の脇腹を深く斬り裂く。 血飛沫が舞い、それでも両者動きを停滞させることはない。 「では聞こう、君に一体何ができるというのだ!?」 「世界を歪める者達を駆逐することだ!」 逆手に持ち替えたトレーズの刀が刹那の首を掻き切らんとし、 滑り込ませた刹那のサブマシンガンの銃身の上を火花を散らし滑りゆく。 「武力を用いるのなら、それは完全平和主義とは矛盾しているのではないか!」 「知っているさ!」 トレーズの左足が刹那の右足を踏み抜き、力が緩んだところを身体ごと体当たりする。 刃が刹那の頬を掠め、赤い線を生んだ。 「俺達が世界にとって異物だということはわかっている!」 「ならばどうして君が彼女の理想を継げるなどと言える! 君にその資格があると思うのか!?」 持ち直された刀が沈み、弧を描く。 刹那の掲げたデイパックが両断され、勢いをさほど減じぬままに肩口を斬り裂いた。 しかし斬り抜けることはない。 サブマシンガンの銃身が刀を受け止め、瞬時に巻き付いたショルダーストラップがその自由を奪う。 血に濡れた刀身は著しく摩擦係数を落とし、引き抜くことも叶わない。 「世界は……無意識の悪意に溢れている。誰しもが心の奥底に悪意を潜め、だが気付こうとしない……」 「その通りだ。だからこそ、私のような者が時代の渦中に立たねばならなかった。まさしく人の世の黄昏と言えよう……。 そして私は私に任じた役割を果たした。残る私もまた……等しく処断されねばならない。世界の憎しみを清算するには罰を受ける者が必要だからだ。 私を裁く、それが君の成すべきこと。敗者になりたいと望む私に相応しい終焉だ」 「まだだ! まだ貴様の役目は終わってなどいない!」 血を吐く刹那の瞳からはまだ力が失われてはいない。 だからこそトレーズも情けをかけることなど考えず、空いた手で鋼鉄の鞘を抜き青年の頭部へと叩き付けた。 額が割れ、噴き出す血潮。 それでも、視線はトレーズを貫き離さない。 「その役割は……俺達が担う!」 「何……!?」 「俺達ソレスタルビーイングは、対話による世界には不要の存在だ……!」 鞘を掴む刹那の腕は震えていたが、奇しくも左腕を痛めているトレーズの握力と拮抗する。 頭部、肩、脇腹と三か所から激しい出血を被りながらも、一向に気勢が衰えない。 「武力により紛争への介入……確かに一時的に争いは収まるだろう。だが根本的な解決ではない……。 ガンダムは人の心の悪意までは根絶できないからだ。時が経てば憎しみが再燃し、引き金を引く者が現れるだろう。 俺達はそんな歪みを駆逐する。誰もが俺達を恐れ、安易に武力で他者を害しようと思わなくなればいい。 その間に、対話によって憎しみを鎮火する者達が人の心を繋いでくれる。彼女……リリーナ・ドーリアンやマリナ・イスマイールのように」 「憎まれ役を引き受けるというのか? 誰に頼まれた訳でもないだろう」 「そうだ、俺が自らの意志で選んだ道だ……俺達ソレスタルビーイングは存在し続けることに意味があった。 神ではなく自らの意志で世界と向き合う……それが、存在するということ、生きるということ!」 刹那を立ち上がらせるのは、自らの信念それのみではない。 ロックオン・ストラトス――ニール・ディランディ。 クリスティナ・シエラとリヒテンダール・ツェーリ、JB・モレノ。 志半ばで散ったソレスタルビーイングの仲間。刹那は彼らの願いを受け継ぎ、今こうして生き長らえている。 「俺達は戦争を根絶し続ける。やがて一つにまとまった世界が俺達を必要としなくなるまで。 それでいい……俺たちもまた、駆逐されるべき存在だ。世界か変革を迎えるのならば、古き存在である俺たちもまたその役目を終える。 だが、貴様はそうではない……貴様には、破壊者でしかない俺と違い、やれることがあるだろう!」 「……なんだと、いうのだ」 「わかって……いるはずだ!」 鞘を引く。同時に刀を押さえつける手を緩めた。 右手と左手、選べるのはどちらか一つ。 刹那が鞘を奪い取り、トレーズが刀の自由を取り戻した。 だが刀にはまだサブマシンガンが絡まっている。 刀を大きく振り、戒めを吹き飛ばしたトレーズの目前に、満身創痍の身体を押して刹那が飛び込んできた。 身体ごと独楽のように一回転し、遠心力を乗せた刃が刹那を襲う。 刹那にトレーズのような本格的な剣術の心得はない。 しかし何も問題はない。 何故なら、 幼いころに腕利きの傭兵に仕込まれた体術が、 マイスターとしての戦いの日々の中絶えず研鑽してきた戦闘者としての感覚が、 なによりエクシア、そしてダブルオーと共に幾多の難敵を打ち破ってきた膨大な戦闘経験が、ここにある! 「ここは……俺の距離だッ!」 視てもいないのに白刃の軌跡が予想できた。 この男、トレーズ・クシュリナーダの技量は刹那が記憶する最も手強いモビルスーツパイロットとほぼ同等。 あの男――戦場の修羅、グラハム・エーカーとの四度に渡る戦いは、刹那の剣戟戦闘のセンスを極限まで研ぎ澄ませてくれた。 そうとも、あのトランザム同士の激突に比べれば何ほどのこともない――遅すぎるくらいだ! 頭上を瞬間に通り過ぎる光。本来断ち切るはずだった刹那の首はそこにはなく、代わりに刀自身の鞘を斬り割った。 半ばから鋭利な切り口を見せ分かたれた鋼鉄の鞘。長さにして短刀程度。 伸びた刹那の両腕にしっかりと収まり、ナイフのような輝きを見せる。 息つく間もなく刹那が繰り出す左の刺突。刀を持つ右腕の手首へと迫る。 未だ刀の加重が抜けておらず引き戻す時間が足りないと見たトレーズは、あえて負傷した左手を前面に出す。 自然、前方へと放り出された血液が刹那の顔を直撃。反射的に目を閉じたもののその狙いは甘くなる。 刀の重さを利用し腕を下げる。鞘の先端は衣服と肉を多少削り取ったものの、握力に影響を及ぼすほどでもなく。 返す刀での斬撃、だが刹那は攻撃が不発だと見るや即座に一歩を踏み込んだ。 膝が触れ合うほどに接近する。刀が巡る領域の内側に入られ、ならばと手首を逸らし柄での打撃にシフトする。 脇の下の急所に強打を受け、刹那の息が詰まる。 だがここで退いては押し込まれる。それがわかっているからこそ、痛みを無視して更なる攻勢をかけるべく刹那は頭を跳ね上げた。 身長の差から刹那の後頭部はトレーズの顎へと吸い込まれるように衝突。 衝撃は等価――だがダメージは刹那の方が大きい。一瞬くらりと意識が遠のいた。 トレーズの姿が、あのときの「奴」に重なる――四年前、最後の戦いがフラッシュバック。 あのときは、歪みを断ち切ることができなかった。 結果としてあの男は四年もの間ガンダムに、刹那に執着し続け、戦うだけの人生を歩んでしまった。 それを望んだのはあの男。だがそうさせたのは刹那自身。 ガンダムは歪みを駆逐する者。 だが、その歪みが間違ったものだとしたら――正しく変革することができるのだとしたら。 ただ殺すだけでは何も変わらない。だから、 (違う――俺はもう、あのときとは違う!) 無意識のまま、右手の短刀を逆手に持ち替え振り下ろす。 トレーズの左大腿部へと突き立ち、飛び出た熱い血によって刹那の意識が覚醒する。 短刀を落とし、腰の刀へと両腕を伸ばす。 踏ん張りが利かないトレーズの身体を肩で突き飛ばした。 「ぐうっ……!」 片足の自由が利かないトレーズは無様に地に転がる。 刹那は奪い取った刀を構えようとし――だが、重みに負けて膝をつく。 全身の痛みは緩慢なものになりつつある。もう、時間がない。 トレーズもまた落ちていたサブマシンガンを拾う。片足立ちになって、銃口を刹那へと向けた。 荒く息を吐くのは両者とも同じ。 だがトレーズには大腿部しか深手と言える傷はなく、身を隠されでもしたらもう刹那に追うだけの力は残っていない。 それを察したか、トレーズは微笑みサブマシンガンの残弾を確認した。 腰の後ろから新たな弾倉を取り出し、装填。暴威の力を呼び戻す。 その整った顔に浮かぶのは恍惚の色。 勝利など求めてはいない。死力を尽くした戦いの果ての敗北――それこそが求めるもの。 だからこそ、トレーズは後退など選びはしない。 刹那の命が尽きる前に決着を付けると、その瞳は物語る。 一時の静寂。 もう、どちらの耳にも本多忠勝とバーサーカーの交戦の音は聞こえない。 目に映るのは、お互いにただ一人の男のみ。 「やはり、私の目に狂いはなかった。君こそが私を敗者へと貶めてくれる者だ」 「……満足か、これが。こんな戦いが……貴様の望む理想なのか」 「いかにも……さあ、もはや言葉はいらない。私を打ち倒し、君は前に進みたまえ。 自らの意志で戦い、勝者となった君は誰にも勝るほどに尊い。君の輝きを最期に私に焼き付けてくれ」 「そう、か。なら……終わりにしよう。俺にはまだ、やることが残っている」 「望み通りに……!」 手を、開く。 刹那が、トレーズが同時に武器を放り出し、地に落着すると同時に蹴り出した。 刀と銃が交差し、離れる。 刹那が銃を、トレーズが刀を。 屈み伸ばした手がそれらを掴むのは同時、しかし立ち上がるのは一人だけ。 片足の自由が利かないトレーズは、剣を弓をつがえる様に引き、飛ぶ。 牙を突き刺すように。 射線を避けようともせず、正面から突き進んでくる金の影。 刹那は構えた銃の引き金を――引いた。 銃声が、静寂を切り裂いた。 時系列順で読む Back それは不思議な出会いなの Next 破壊者たちの黄昏 投下順で読む Back それは不思議な出会いなの Next 破壊者たちの黄昏 132 みんな! 丸太は持ったか!! バーサーカー 149 破壊者たちの黄昏 132 みんな! 丸太は持ったか!! トレーズ・クシュリナーダ 149 破壊者たちの黄昏 132 みんな! 丸太は持ったか!! 刹那・F・セイエイ 149 破壊者たちの黄昏 132 みんな! 丸太は持ったか!! 本多忠勝 149 破壊者たちの黄昏
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crosswise -white side- / ACT3 『Glossy MMM』(2) ◆ANI3oprwOY ◇ ◇ ◇ ◇ /Glossy MMM(4)/あるいは阿良々木暦の俯瞰風景『抗物語』 ――それは先触れだった。 対峙する僕と東横。 冷たい静寂が僕らの間にある。 拳銃を武器とする僕と、鎌を武器とする東横。 距離は五メートルも無く、両者とも迂闊に動けない。 しかしどちらが優勢かと問われれば、東横に軍配が上がるだろう。 拳銃を持っている分、僕の方が強いようにも思えるけど、問題は立ち位置だ。 戦場の全体を見渡せる場所にいる東横、スザクと一方通行の戦いに背をむけている僕。 プレッシャーの差が違いすぎる。 今にも背後から、衝撃が僕の背を叩くかもしれないという脅威。 予見して対応できる東横。 絶対的差だ。 だからこそ僕はすぐにも攻め込まなければならない、のだけど。 またこれが難しいのだ。 背後に庇うインデックスの存在とか、ふと気を抜けば見失いそうな東横の輪郭とか。 そしてなによりも東横の余裕の態度が、僕に攻めることを躊躇わせていた。 「どうしたんすか? 来ないなら、こっちからいくっすよ?」 にひるに笑んで、挑発する彼女の剣呑さ。 僕の銃口も、僕の背後で巻き起こる常識外の殺し合いすら何処吹く風と受け流し。 攻められるのを待っているかのよう。 焦燥の一つも滲ませず、超然とした東横桃子を掴めない。 分らない。何が彼女の余裕に繋がっているのか。 って、駄目だこれは。 これじゃまたジリ貧だろう。 ただただ状況を引き伸ばすだけの、こういうのを敵のペースっていうんだ。 呑まれるな。呑まれている限り僕に勝ち目はない。 気を引き締め、もう一度、見る。 東横がどれくらい強いのかは分らない。 何を狙っているのかも知らない。 消える、そのチカラがどういうものなのかも、僕には分らないけれど。 「行ってやる」 動かないと始まらないのは確かなのだ。 体の力をコントロールして、僕は僕の強みを活かす。 本命は僕に残された吸血鬼の胆力。拳銃は使わない。 今に至っても人を殺す気になんてならないし、こいつはデコイだ。 東横の視線を集め、逸らし、そして本命を達成するための。 冷静に、作戦を立てなくちゃいけない。 まず銃弾を床にむかって撃ち、東横を怯ませつつ背後のインデックスを引っ張って走る。 今は東横と戦うよりも、崩れそうな立体駐車場からの離脱が最優先だ。 大丈夫、逃げ切れる。脱出先への距離は僕らの方が近い。 目指すは僕の右後方にある非常口。 ショッピングセンター本館内にインデックスを逃がす。 その後、僕はこの場所に戻って枢木のサポートを―― 「あ、いやけど、もういいっすよ」 「――え?」 と、その時、唐突に聞こえた声に、僕は出端を挫かれていた。 見れば、身構えていた僕とは対照的に、東横は鎌を下ろしている。 その代わり、逆の手を上げてこう言った。 「もう決着はついちゃうんで」 「な、に?」 訝しむ僕へと、東横は微笑んでいる。 余裕の態度を欠片も崩さず。 「もう終わりっす」 僕の後方を指差す東横。 とたん、一際大きな破壊音が響き渡った。 「……っ!?」 砕ける天井、崩落する床、 そして終わろうとする枢木の戦場。 つい振り返りそうになるのを全力で耐えた。 結末がどういうものか、見るまでもない。 このままじゃ枢木は死ぬ。この場所も、きっともうもたない。 「私はそれまで、あなたに邪魔されないようにすればいいだけ、だったんっすよ」 意図的に姿を晒したと言いたいのか。 僕を足止めするために。 だけど一方通行による虐殺が行われれば、被害は東横にまで及ぶはずだ。 にもかかわらず何故、こいつは……? 「ああ、心配無用っす。 私は絶対に見つかりませんから、特にあの人には」 あの人、おそらく一方通行のことだろう。 その自信はどこから来るのか。 「目の前の殺害対象だけを追いかける怪物。 もっとも消えやすい相手っすよ、あのタイプは。 それに……あなた達からいいコト、聞いちゃいましたし」 言って、己の鎌を一振りする東横。 そうかこいつ、僕らの近くにずっと居たと言っていた。 つまり、聞いていたってことか、僕らの会話、作戦の全てを。 「時間切れと、GN粒子は通用する、でしたっけ。 情報ありがとうございました。分っちゃえば簡単っすよ。 私なら、きっと倒せる。最強だろうと、なんだろうと」 なるほど。 その為に、少なくない危険を冒してまで僕らに接近していたのか。 見つからないことに絶対の自信をもっている東横が、一方通行を倒せる武器を持っているのなら、打倒は可能かもしれない。 条件は揃っている。 しかしそれは、 「ここを切り抜けれたらっすよね、ええ、もちろん」 崩落に近づくステージの上で、 東横桃子は最後まで揺るがない。 「だからこうすれば、私の勝ちっすね」 東横の片腕が、上がる。 ナイトメアフレームの遠隔操作機材を持ったその手を。 銃口が、僕を捕える。 いやそれは、この場全て、枢木や一方通行すら例外ではなく。 正しく全員をロックオンした、砲撃の狙いだった。 東横の背後、銃口を上げる彼女の動きに連動するように、 はるか後方のビルの屋上にて控える機動兵器――ガレスがその全部武装を展開し――立体駐車場へと突きつけて―― 「まさか……お前……ッ」 「その、まさかっす」 目の前で行われようとしている暴挙に、漸く我に返った僕が止める間も無く。 今、東横は迷わずトリガーを引いていた。 少女の指が、引き金を、かちりと、音をたて、不可視の弾丸を、撃つ。 「――!?」 ガレス。砲の塊のような兵器、その一斉掃射。 瞬間、巻き起こった衝撃はこの空間全てを激震させた。 東横を除いた全員が、巻き起こった現象に意表をつかれた筈だろう。 ロケット砲、ミサイル弾、レーザービームまで混じったそれが、この『場』へと撃ち込まれる。 振り返らない東横の背後から飛来したそれらは、コンクリートと鉄骨で形成された立体駐車場を容易く貫き、粉砕し、溶かす。 初めから設定されていたのだろう、東横の居る位置には一切の損害を与えず。 「作戦成功っと」 東横が操るガレスは、僕らのいる立体駐車場へと全火力を叩きつけた。 僕らが居る五階だけでなく、一階から四階までの中間。 支柱を砕く全開火力。 緩やかに迫っていた崩落が、それで一気に振り切れる。 天井は割れ、地盤は砕け、全てが瓦礫に飲まれ始める。 僕も、インデックスも、枢木も、そして一方通行すらも例外ではない。 決して彼個人には致命打にならなくも、フィールドを崩す攻撃は場にいる者全員に等しく影響を与えるのだ。 当然、僕や枢木にはそれが致命となることは言うまでも無いが。 ともあれこの一瞬、全員の動きが止まった。 「……な?」 けれど彼女はその条理に囚われない。 掻き消えていた東横の姿。 声だけが、辺りに漂うように残されて。 「――さようなら、阿良々木さん」 気を揺さぶられた一瞬の間に僕は、敵を見失っていた。 やられた。 おそらく僕とインデックスを確実にここで潰すことが、東横がここに留まった理由の一つ。 保身性と確実性の両立。 中途半端な気構えでは対抗できない徹底ぶり。 やりかたに少し、どこかいけ好かない男の面影を感じる。 「くそっ、走るぞ!」 銃を懐に突っ込んで、傍らの少女の手を掴む。 そうこうしている間にも僕らは瓦礫に飲まれ始めているのだ。 今すぐにインデックスの手を引いて走らなければ、辿り着かなければならない。 地盤の揺れで動けなくなる前に。 脱出口は、おそらく東横も向ったであろうショッピングセンター本館に繋がる非常口。 ルートが瓦礫で閉ざされる前に、行かなければと、闇雲に駆け抜けようと、 「痛!?」 して、僕は床に転がっていた。 「は? は? はぁ?」 唐突に膝元と腹部をを襲った激痛。 見れば、ああ、ああ、畜生、僕の制服が真っ赤に染まっている。 切り裂かれていたのだ、気づかぬうちに。 誰になどと、言うまでもなく。 「東横……ッ!」 あのやろう。 マジで徹底してやがる。 僕を完全に足止めして、自分だけ確実に逃げやがった。 半吸血鬼といっても重傷の回復には時間が掛かる。 これじゃあ這って進む位しか、しばらくは出来ることがない。 だから這って、這って、這うしかなくて……。 「くそ、が」 間に合うはずがない。 終わったと、理解した。 今度こそ、何もかもが終わったのだと。 東横が消えたことによって漸く振り返れた戦場では、枢木が遂に追い詰められていた。 全滅はもう目前だろう。 なにも出来ない僕の目の前で無意味に時間だけが過ぎていく。 地盤の崩落が、進行していく。 そして、どうしてか、 「お前なんで、逃げないんだよ?」 僕の前にインデックスは立ち続けていた。 「…………」 彼女は僕を見下ろしたまま何も話さない。 僕がしつこく手を握り続けているから、逃げにくいんだろうか。 そう考えて力を抜いたけど、何故か離れなかった。 「……?」 響き続ける地鳴り。 しばらく時間ばかり、流れ続け―― そして崩壊が僕に追いつく。 がらり、と。 僕の足元が砕けて、消えた。 「――っ」 ひぃ、と息が洩れる。 声にならない音を吐きながら、胃が持ち上がる不快を感じた。 落ちるのは慣れないんだろうなとか、東横に転落させられるのはこれで二度目だなとか、やけに暢気な感想が頭を麻痺させる。 色々と、思うことはある。 ただ、声になったのは一言だった。 「……ごめん」 ごめん。 守れなくてごめん。 ふがいなくてごめん。 何も出来なくて、ごめん。 僕は結局、誰も助けてやれなかった。 悔しくて、僕は死にたくなる。 どうしようもなくて、それでも諦めきれない。 何のための抵抗かも、もう分らない。思い出せない。 心の中はからっぽだ。 からっぽだっていうのに、どうにかして彼女だけは庇おうと、僕はインデックスの手を強く握り引き寄せようとして。 「……あ?」 だけどその時、違和感を感じた。 引こうとした彼女の手から、抵抗があった。 「お、おいっ!?」 引いていたはずの彼女の手が、逆に、僕の手を引き。 落下の間際、僕はインデックスに抱きしめられていた。 思い出す。 そうだ、コイツの服はなんだか凄い強度で、ってことは僕は今、逆に庇われているのか? でもそれじゃあ……。 「……ぎ」 落ちていく。 インデックスの肩越しに見る、あいつの姿。 僕が生き残るとしても、 「……く……ぎ」 あいつはまだそこに居るのだ。 そこに、いるのに……。 「……くるる……ぎ」 未だ、たった一人で戦い続ける男が残っている。 崩落するフィールドの中で、敵う筈の無い大敵と対峙する彼が、まだ残っているのに。 雪崩落ちる瓦礫の隙間からまだ見えている。一方通行へとただ一人で立ち向かうその姿。 今にも、悪夢のような火力に押しつぶされそうな男の奮戦。 なのに僕は、僕はこんなところで―― 「くっ……そぉ!」 何も出来ない悔しさに耐え切れなくて。 落ちていく世界のなか、僕は彼の名を叫んだ。 この期に及んで出来ることは、それっぽっちしかなかったのだ。 「くる、ぎッ!」 インデックスの肩越しに手を伸ばし、 声だけが虚しく轟き、戦場に繋がる視界は瓦礫の雨に閉ざされる。 「――枢木スザクッッッ!!!」 だから僕は気づかなかった。 知るはずも無かった。 その叫びが、その名前が、戦場を動かしていたということに。 ◇ ◇ ◇ ◇ /Glossy MMM(5)/執行 その炸裂は致命過ぎるほどに、決定的な一撃だった。 がらがらと、音をたてて崩れていく戦場の檻。 内包する物者全てを例外なく飲み込み、瓦礫の海へと引きずり込む。 この場所においては間違いなく、地が割れ空が落ちてくる終末の姿。 局所的かつ人為的な天変地異と言っていい。 そんな光景にあたっては誰もが飲まれ、誰もが驚き、誰もが切迫するだろう。 半吸血鬼の少年も、白の騎士も、最強のレベル5ですら例外なく。 目前で巻き起こる事象に対応を迫られ、大なり小なり驚の念を感じていた。 しかし破壊の渦中でただ一人、平静を保ちながら悠々と闊歩する者がいる。 勿論、地がひび割れ天が砕けるこの場所で、これほどの余裕を保てる者など―― 「さてと、これから忙しくなるっすねー」 事態を引き起こした張本人、東横桃子に他ならない。 「必要な情報は全て揃い、不確定要素は何もない」 桃子は天地砕ける戦場を、鼻歌でも歌いだしかねないほどの気軽さで歩んでいた。 切り札たる鎌を片手で引きずりながら、真っ直ぐ進んでいく。 若干足を引きずるようにしながらも、彼女には一切の焦りも迷いもない。 桃子が求めた二つのものが、全てここに揃っていた。 一つは、情報。 「あの白髪さんには、私を見つけられない」 未だ見知らぬ参加者の情報及び、対抗策の入手。 最大の懸念対象だった未知の敵(一方通行)への脅威はこれで去った。 彼に桃子が見切れない事は、隣のビルに隠匿したガレスを気取られなかった事で証明済み。 桃子の痕跡には例外なく消滅の因子が組み込まれるとはいえ、それすら見えなかった者に桃子本人を捕らえる事など叶うまい。 その上で弱点がハッキリした今ならば、容易に刺せる手合なのだ。 「加えて阿良々木さんと、龍門渕の大将はここで脱落、と。完璧っすね」 そして、もう一つの求めたものは、排除するべき命。 脅威たる『桃子を知る存在』も、ここで潰した。 目論んだ策は見事に事を成していた。 ステルスをもって敵地に進入、潜伏し、情報を得、命を奪う。 順風満帆。不安はない、後は得た情報に従い計略を練って動けばいい。 この場を離脱すればひとまず、目標達成だ。 今更自分を追ったところで、もはや阿良々木暦は間に合うまい。 未だに戦い続ける者達も、桃子がここにいるというだけで目を向けようともしない。 あえて自らこの場を崩落させることで、一方通行の動きを止め、己の逃げる隙間を作る。 同時に彼以外のその場の全員を殺す。 大胆でリスクも高いが、不足の無い戦術だった。 「――でも、怒られちゃうかな」 ただ一つだけ、心を咎めたのは、ただそれだけ。 予定にない事をやったこと。 天江衣の参戦とその能力による戦場の膠着は予想外で、 対抗するために、本来ならば対面のビルにて安全圏に留まっている筈の自分がここまで乗り込んだのは、『作戦』には無い事だった。 結果的に上手く行ったとしても、共闘相手の彼女はやっぱり怒るだろうかと、想像して。 「ま、その時はその時で。 上手く行ったんだし、文句言わせることもないっすよね。 どうせ――死なせてしまう相手なわけだし……」 ふと浮かんだ不快を自嘲気味に笑い飛ばし、歩みを止めた桃子は、冷たいドアノブに手を触れる。 それは崩落する立体駐車場から逃れ出る、唯一と言っていい脱出口だった。 ショッピングセンター本館へと繋がる古びたドア。 手にした鎌でドアノブを切り裂き押し開ける。 もう暫くすれば、立っていられないほどの揺れが来るだろう。 ゲートを潜る直前、桃子は最後に戦場を振り返る。 そこには一つの決着が訪れていた。 全てが瓦礫に飲まれていく光景。 降りしきる質量の雨の中で、終わろうとする戦い。 彼らは何一つ得られず消えていく。 だからこの時、この戦場、己の勝ちだと桃子は確信していた。 そして勝利を覆す要素は限りなく少ない。 第三者の視点で見ても、この戦場での勝者は彼女であると評したことだろう。 桃子の外界にいまや計略を狂わせる要素は何一つありえず。 だからこそ―― 「――――!!!」 「え?」 彼女を、東横桃子を破滅させたモノは紛れもなく、彼女の内側にあったものと―― 「――枢■■ザ■ッ■ッ!!!」 たったそれだけの、トリガとなるべくして『設定』された一言だった。 ◇ ◇ ◇ /Glossy MMM(6) 天が崩れる、地が割れる。 フィールドが死ぬ。 壊滅する空間全て、質量という純粋な破壊力に変換される。 上下左右如何なる死角も皆無たる破壊の本流は、いま正にスザクを飲み込まんとしていた。 「――あァ?」 だがしかし、それら全てがチンケな砂つぶに思えるほど、 いま彼の正面にある脅威は膨大すぎた。 「ァァァァァァあああああアアア――――ッッッ!!」 暴虐の爆風が吹き荒ぶ渦中にて、枢木スザクは雄叫びを聞く。 義理は果たした。 目前の敵と戦い続ける道などもう選んではいない。 この場で己に課す最大の目標は離脱であり、そして己にとって本当の戦場に馳せ参ずること。 何が最も大切で今何をするべきなのか、弁えているし迷いは無い。 だがしかし、同時に確信させられていた。 これを何とかしないことには、離脱は不可能だ、と。 怒りを顕にブチ切れる、白貌の怪物。 己の狙った戦法をすんでの所で掠め取られ、殺るべき獲物を横あいから掻っ攫われた彼の怒りは頂点に達する程であり。 「調ォ子こいてンじゃねェぞゴミがっ! やり方がクソ狡いンだよ、悪党なら俺の前に立ちやがれェ!」 ぶつけるべき相手は何処を見渡しても存在しない。 ならば自然、向けられる暴虐は全てにだ。 文字通り一方通行の視界の全てに齎される破壊事象。 「上等ォじゃねェか、 だったらより早く完全確実にィ、 俺がぜンぶをぶっ潰せば速ェ話だよなァ!?」 風を集める。 力を収束させていく。 周囲一切を殺す力、衝動のままに解き放つ。 確実な手段? 勝つための戦略? 能力制限? タイムリミット? 全て知ったことか。 「圧縮、圧縮、空気を圧縮――!!」 何のために力をセーブしてきたのか、忘れたわけではない。 余裕のあった残り時間が削られていくが、構わない。 己の矜持たる悪として、ここでこの悪は見過ごせない。 たとえ能力を使い切ってでも確実に殺す。 殺さなければならないと断定する。 方法は決まっている。 ここより半径数百メートル四方、全て残らず壊滅させる。 残る時間を総動員させれば出来るはずだ。 生憎、計算能力だけはやけに冴えているのだから。 「さァ――死」 「――止まれ」 だがそれを、黙って見過ごすスザクではない。 大技の予備動作に移行していた一方通行へと、砕けていく地を蹴って肉薄する。 崩壊の渦中にあっても流れるような動作で、腰だめに構えた腕を突き出し、矢の如き正拳突きを見舞う。 「ちィ……!」 すんでのところでスザクの存在を思い返した一方通行。 我武者羅にクロスさせた腕に高速の拳が突き刺さり、衝撃で大きく後方に弾かれる。 「っ……なァ、おい」 だが同時にこれは、 一方通行の逆鱗を鷲掴みにする等しい暴挙だった。 「おもしれェじゃねえか。どいつもこいつもよォ……!」 赤き瞳がスザク一人を捉える。 全世界を殺し尽くす意志に燃えていた大紅蓮が、たった一人の人間に矛先を向ける。 「あァまったくおもしれェ」 たんっ、と。 地を蹴る音は軽くとも。 「いィぜ。ノってやろうじゃねェかよ」 反転の勢いは圧巻だった。 今までと同じく、いや今まで以上に。 速度は常軌を逸している。 スザクの足が自然、後ろに下がる。 後退が唯一の生存手段であると、ギアスを含め断じたということだ。 タガの外れた一方通行とは、自身の限界を無視した彼は、 ともすれば知略を巡らせる頭脳など、小手調べにもならないのだと言う様に。 「逃がすかよ」 追う者はここに、一瞬にして追われる者に切り替わる。 大きく後方に下がったスザクへと、一方通行が迫り来る。 音よりも速く、光よりも速く、人の認識を超えた速度。 取る武装は己の手、確実に潰せる殺人接触。 崩落は既に間近。 何れ時が来ればスザクに退路は無い。 しかしそれまでに殺す。 お前だけでも必ず殺すと、対面する敵は告げているのだ。 対するスザクは拳を握った。 どちらにせよ、これしかない。 下手な小細工一切皆無のぶつかり合い。 激突は一秒後に待ち受けて、だがそのとき遂に地盤のヒビ割れがスザクの足元にまで及んだ。 崩落が佳境に入り、いよいよ世界が飲まれだす。 「こんな、時にッ」 迎撃を実行する寸前、踏み割った地盤に足が挟まれた。 力を込めれば抜けられる僅かな、しかしこの敵を前にはあまりに致命的な隙。 腕が目前に伸びてくる。 不完全な踏み込みを放棄し再度後方に跳ばんとするも、 薙ぎ払うように振るわれた一方通行の腕が、舞い散る天井の瓦礫を砲弾に変える。 「――ッ!」 飛来する瓦礫の砲弾は計三つ。 どれ一つとっても絶死に謙遜の無い威力であり、いずれもこの体勢では避けられない。 回避不能。 握る拳銃の威力では止められない。 拳で切り抜けるなど夢物語。 故に、 スザクの第六感が、これは負けると残酷な確信を告げた。 そのときだった。 斬 光の軌道が一度きり。 鋭利で鮮烈な一筋の燐光が、この場最後の戦端に、誰の目にも不意となる割り込みをかけていた。 超人と達人、両者にすら察知を許さなかった実体の無い刃の一振り。 空間に刻み付けるような、眼に焼きつくような、 燃え滾る情念の滲むその一撃はスザクの目前にあった砲弾を切断し、更に屈折の鎧に守られている筈の一方通行の脇腹をすら抉り抜く。 「がッ!?」 この戦闘で初めて驚愕を発露する一方通行を視界に捕えた次の刹那、 遅れて一方通行の手元で暴発した砲弾の、 破壊力の結晶によってスザクの五体は吹き飛ばされていた。 背後の折れた柱に激突し、全身を打ちつける激痛が走る。 軋む身体。脳震盪を起こしたかのように歪む視界と感覚の中にあっても、この時スザクは迷わなかった。 今、動くしか無い。 視界は暗い、いったい何に、いったい誰に、救われたのかも分らない。 正確に何が起こったのか不明瞭。 しかし、己が生きていることだけは確かなのだから。 行かなければ。 瞬時に引き起こす胴、踏み出す足、跳び上がる血塗れの全身そして、 「オマ、エ……!」 撃ち込む回転蹴りが遂に、一方通行に届いた。 数瞬のラグで取り戻す視界。 蹴り飛ばした敵の背後、床は抜け落ちいまや真っ黒の奈落のみがある。 そこへ落ちていく、遠ざかっていく、白貌の怪物。 燐光に貫かれたらしき脇腹から鮮血を拭き散らかしながらも、 降りしきる瓦礫の雨越しに歪んだ口元が健在を語っていた。 追撃の機会を逃したと言えるのか、この場を凌いだと言えるのか。 どちらにせよ、終戦の訪れには違いない。 秒刻みに崩落するステージの上で着地し、一人周囲を見渡すスザク。 「……?」 そこに、光の斬撃が過ぎ去った後に咲いていたものは、血の華であった。 脇腹の裂かれた一方通行の血飛沫、否、それにしては大量すぎる何かの血液、一面に舞い散る赤色。 からん、と。 何かが落ちる音がした。 スザクの傍らの床にある血溜まりの中心に落ちたモノ。 ひしゃげ壊れたそれは機械で作られた何かの武器の、残骸に見えた。 そう、見間違えでなければこれは確か、天江衣を殺害した―― しかし今は、考えている時間など残されておらず。 ノイズを含んだ音の向こうで、奈落が近づいてくる。 もうすぐそこまで迫っているのだ。 巻き込まれるわけにはかいない。 退避しなければ。 どこへ? わからない。 わからないがここを離れなければ死ぬ。 やるべきことがある。 今すぐ行かなければならない戦場が在るのだ。 もうここで出来ることは全てやった。 残したものは無い。 だからこそ、次はスザクが本当に行くべき、彼のいる場所へと行かなければならない。 背後を見る。 ショッピングセンター本館への脱出口。 たったいま、瓦礫に閉ざされた。 前も後ろも逃げ場はなく、ならば道は一つしかない。 痺れる拳を握り締め、俯瞰する外の光景へと歩みだす。 先ほど阿良々木暦が転落していった方面とは逆側の、ビル街を見下ろせる落下防止の柵の向こう。 目前には外の空間にして五階分の高度。 生身の人間が落下すれば二秒と掛からず即死を免れない。 崩落する戦場の中ただ一人、彼は留まっている。 柵にもたれかかり、息を整え、足元にまで及んだ床の罅割れを見下ろしている。 選ばされているようだった。 自分で外へ身を投げて落ちるか、床が消えて瓦礫に埋まるのを待つか。 しかしどちらを取るかは決まっている。 大きく息を吸い込んで、吐き出して。 スザクは両手両足に力を込め、一気に柵を飛び越えた。 中空に放り出される五体。 何らかの保険があったわけでもない。 ただ前に進みたいと、己が行くべき場所に駆けつけなければと、思っていただけ。 故に奇跡が起きるわけもなく。 スザクの体は重力に引かれて落ちる。 当然のことだが承知の上でスザクは実行した。 一方通行のように能力の加護があるわけでもなく。 阿良々木暦とインデックスのように、歩く教会の備えがあるわけでもなく。 己の肉体一つで前に進むため、向うべき場所に行くために。 例えそこに道がなくとも、踏み出さなければならないからこそ。 飲まれる道など選べるはずもなかったのだ。 「……まったく」 とはいえ、スザクは現実を見失っていたわけではない。 生きることを諦観していた筈もなく。 だからそこに――『道があった』ということはある種、当然の理屈だった。 「奇妙な、因果だ」 スザクは率直に、思ったことをそのまま口にした。 己の二本の足で立ちながら。 ここは最早、立体駐車場の領域の外であり、ならば地面など無いはずの空にて、スザクは立っている。 鋼の大地の上に、伸ばされた救いの手の上に、彼は立っていた。 「まさか、これに助けられるなんて」 それは銀の手の平だった。巨大な機械の手。 スザクを救うために、足場となるべく伸ばされていた腕の持ち主。 この、紅蓮と呼ばれる機動兵器を、スザクは誰よりも知っている。 戦場で幾度も相対し、ぶつかり合った、宿敵の機体。 様々な人間関係が目まぐるしく変わる世界の中で、終ぞこの機体はスザクの敵で在り続けた。 だからあの頃から、何があろうとも、己がこの機体に救われることは無いだろうと思っていたのに。 ああだけど、この機体ほど、彼の使いに見合う物もあるまいか。 「…………はぁ……はっ……ぁ……」 見上げるスザクの前で、機体が動く。 コックピットを後方へせり出させ、パイロットが姿を現す。 その姿を見て、ほんの少しの安堵が掠めた。 本当に、彼女に救われるような事は無かったらしい。 「あなたが……スザクさん、ですよね……?」 けれどすぐに心を引き締めて、声を受け止め、頷く。 見知らぬ少女の操る紅蓮、その傍らではもう一騎、白の騎兵が既に控えている。 ここに来る過程で既に回収していたのか、手際の良さも十全のようだった。 「……お願い……します……」 極めて狭いコックピット。篭る熱気に当てられたのか、少女は喋ることすら辛そうだ。 操縦桿をつっかえ棒にするようにして、ぜえぜえと息も絶え絶えに胸を上下させている。 汗に濡れ、額にぺたりと張り付いた前髪に頓着せず、少女は必死にスザクを見つめていた。 スザクを通して違うものを、彼女が縋る何かに請うように。 「助けて……ください……ルルーシュさんを……私たちを……っ」 スザクを救うように伸ばされた手は、 まるで彼女自身の救いを求めて、伸ばされていたというように。 「ああ、分っている」 そして無論、伸ばされた手を取ることに、 取られることに、何の迷いも在りはしない。 逡巡など皆無だ。 「すぐに行くよ」 ここに道は在る。確かに今、踏みしめている。 ならば今こそ、今こそ参じよう。 「だから案内を、頼む」 ――いざ、己が立つべき戦場へ。 ◇ ◇ ◇ ◇ /Glossy MMM(7)/偽還 時を一つ、遡る。 これは間隙の出来事だった。 枢木スザクには感知できなかった真相。 白の騎士と白の怪物が激突する、刹那の一場面。 「――――ぁ」 鼓膜を僅かに震わせた声は、電気信号と化し雷速で脳裏へと突き刺さる。 「な……」 次の瞬間、移り変わる景色を前に、東横桃子は呼吸を忘れる程の衝撃を受けていた。 なんのことはない。 崩落する戦場は変わらない。 白の騎士/枢木スザクと白の怪物/一方通行が激突する戦場は、彼女以外の誰が見ても違わぬだろう。 しかし今、彼女の目前に在るのは些細な違いだ。 それでいて、幼児むけの間違い探しのように分かり切った差異だった。 「……ぁ……え?」 なのに分からない。 理解不能。理解できるということが理解出来ない。 それは、理解したくないと願うことに等しく。 「なん……で……」 東横桃子は悔いた。 理解よりも早く、これからもたらされる結末よりなお先に。 何故見た。 何故振り返った。 何故あのまま戦場に一目もくれず立ち去らなかった。 何故聞いた。 何故耳を塞がなかった。 何故あのままノイズを無視して捨て置かなかった。 己が行為を呪う。 呪えど、遅い。 何故ならこの時、東横桃子の視界に在る存在の名を―― 「せん……ぱい……?」 聞いてしまったから。 そして見てしまったから。 だからもう、戻れない。 「嘘……なんで……」 久方ぶりに思い出す、声があった。 ――東横桃子、お前は―― 瞳を覗き込む紅き眼。誓約(ギアス)に変わる言の葉。 その声はそれから、なんと言っていたのか。 ――危機に瀕した『■木スザ■』を―― それから、何を。 あの時は銃声に霞んでよく聞こえなかった内容と名前。 けれどこれだけ何度も、そしてはっきりと、 あの少年が呼べば理解できてしまったその、あまりにどうでもいい名ともう一つ。 ――『加■木■み』であると認識しろ―― 決して聞き逃すことのない。 桃子にとって最も大切な名を。 ――『■治■ゆみ』であると認識しろ―― 汚し。 弄び。 侵す。 その呪言。 ――危機に瀕した“枢木スザク”を―― 変性する。 聴覚でなく、脳裏が捉える言葉の意味が。 荒唐無稽なアナグラムのように。 ――“加治木ゆみ”であると認識しろ―― 変性する。 視覚でなく、感情で見る存在の形が。 説明不能なモンタージュのように。 崩壊の渦中にあって尚、怪物に追い詰められる男/女の姿。 枢木スザク/加治木ゆみ の姿が今、見えるのだ。 「嘘、だ」 刹那の思考。 それは全くの幻想であり、嘘である。 そう桃子は断じた。 当然のことだ。彼女がこんなところに居るはずがない。 彼女は死んだ。あの決定的な喪失を見た桃子にとっては違えるはずのない事実であり、それはまだ覆していないのだ。 だからあれは嘘だ。 例え景色が如何に見えようと、理性が働けば誰でも分かる道理である。 「………は」 しかしそれは、理性が働けばの話だが。 「やって、くれる……っすね……」 知らず、踏み出していた己を自覚して、桃子は自嘲気味に笑った。 なるほどこれは逆らえない。 逃れる術(すべ)の無い計略だ。 ともすれば己は最初から、この時このためだけに掛けられた保険だったのか。 あの男。 悪逆の非道を憎悪する。 嘘だ幻だ罠だと、理解していても踏み出す身体を止められない。 当然のことだ。 この光景を前にして、この存在を目にして、理性に従うことなどできるものか。 できるはずがない。当然のことだ。 なぜなら真実これだけを、この存在だけを――彼女だけを求めて、桃子はここまで来たのだから。 「…………ッッッ!!」 分かっている。 嘘だと知っている。 それでも足は止まらない。 踏み出しは、歩みを飛ばして駆けよと動く。 この瞬間、桃子の脳裏を制圧する、思いは一つ。 ――許さない。 こんな冒涜を仕込んだあの男を許さない。 それに絡め取られた己自身を許さない。 しかし何よりも、ここで、彼女の死を見過ごす事だけは、絶対に許せなかった。 理性の上では分かっている。あれは違う。嘘だ。幻想にして己の破滅そのものだ。 行ってはならない、手を伸ばしてはならない。目を逸らさなければならない、と。 だけど、だとしても、同時にやはり真実なのだ。 なぜならそれが絶対遵守の理であり、同一の重み。 この瞬間において、桃子にとって本物と意味を同じくする。 いまあの彼女は、桃子の中でのみ、本物だ。 桃子が守りたかった、生きていて欲しかった、共に生きたかった彼女の価値だ。 ならばここで、彼女を見捨てるという事は、桃子が今まで歩いて来た道を否定する事に他ならない。 ここまで歩んできた意味を、全て投げ打つ行為に等しい。 だから、どうあっても抗えないのだ。 何も還らないことは分かっている。 取り戻せないと知っている。 それでも、二度と嫌なのだ。 あんな思いをすることだけは、また亡くしてしまう事だけは。 だって掛け替えの無いものなのだから。 一番大切な者なのだから。 ――もう二度と、私の前で、失われることなど許せない。 囃し立てるように魔王が笑う。 『さあ、今こそ望みを叶えてやるぞ。偽りの幻想で悲願を果たせ。特別だ、お前の意志で選ばせてやる』 だからこれは、呪いであると同時に祝福だ。 欺瞞に満ちし、祝言。 少女の夢を汚し愚弄し偽りの救いを押し付ける、悪魔の所業。 故にあの言葉はきっと、最適の言葉だった。 この時この瞬間、桃子は何よりも迅速に、全てを投げうって戦地へと舞い戻る。 己が命など度外視して白貌の最強に捨て身の一撃を加えるだろう。 例えば『守れ』という、単純な指令よりもきっと強く、鮮烈な想いを掻き立てる黒き祝福は限界を超えて桃子を突き動かす。 ましてや、己を明確に変性させる禁忌の術を、このとき桃子はその手に収めているのだから。 「……ゆる……さないっ!」 スカートのポケットへと手を伸ばし、それを掴み取る。 逡巡など皆無。理性など全て取り払ってしまえばいい。 手には命を刈り取る死の鎌を。 痛む脚には駆け往く無痛を寄越せと願う。 ただ目前の攻防へと、間に合わせしめるチカラを欲した。 その為だけに少女は今、小さな自壊(ブラッド・チップ)を口に含み―― 「……ぁ…………ぐ……ぁぁぁっ!」 感情の膨張は臨界を迎え、炸裂する激昂。 確約された破滅を知っても尚、東横桃子は止まれなかった。 たとえ、一秒先に終わりがあろうと。 「……っ……せん……ぱい……にっ……ッ!!」 捨て身を承知で、ただ大切な者へと突き進む自我。 それは燐光を引き連れた最後の煌。 刹那、守るべき色彩を捉え、閃光に変じた深紅の双眸は正しく、覚醒された『孤独』の起源にして。 「……手を、出すな――ッ!!」 ――そして誰よりも強く、絆に惹かれる疾走の軌跡だった。 【東横桃子@咲-Saki- 消滅(ロスト)】 【 ACT3 『Glossy MMM』-END- 】 時系列順で読む Back crosswise -white side- / ACT3 『Glossy MMM』(1) Next crosswise -black side- / ACT3 『勇侠青春謳(ゆうきょうせいしゅんか)』(一) 投下順で読む Back crosswise -white side- / ACT3 『Glossy MMM』(1) Next crosswise -black side- / ACT3 『勇侠青春謳(ゆうきょうせいしゅんか)』(一)
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境界線上の水平線 ◆MQZCGutBfo (……目の前の私を全然そういう目で見ないのに……) いくら誘ってもまったく動じなかったヒイロが釘付けになっているのは、 例え自身の過去に色々あったとしても、やはり女として納得いかないものがある。 (もしかして、大きいのがいけないのでしょうか…… それとも、映像内でしか欲情できない性癖なのでしょうか……) 悶々としているファサリナを余所に、ヒイロはディスクを停止させる。 「確かに、映像技術は秀でているようだ。 各所に監視カメラのようなものが仕掛けてあったとしてもおかしくはない。 ……どうした、ファサリナ。」 「いいえ、何でもありません。元気になったのなら早く出発しましょう。」 「何を怒っている?」 「怒っていません。」 やはり自分は人の機微に疎いようだ、とノートパソコンを閉じながら考える。 「……海上からエスポワールに向かうのが安全だと考えると、[A-2]が封鎖される前に調査を完了したい。 心霊スポットでの探索時間を考えると、先にこのまま地図外に向かってみる手もあるが…… エリアから出た瞬間に首輪の爆破もありうる。ファサリナは一度陸上に降りていてくれ。」 「嫌です。」 「……」 「時間が無いのなら、尚のことこのまま行くのが良いかと。 私は、あなたと共に行動することに決めているのですから。」 珍しく、ヒイロが溜息をつく。 「すまないファサリナ。……俺は、人の心を忖度するのが苦手だ。 何かで傷つけていたのならば謝る。 俺には直接思っていることを言ってくれて構わない。」 そこまで言われてしまうと、ファサリナも矛を納めてしまう。 「いえ……私もどうかしていました。 ただ、単独行動は避けた方が良いかと。陸上が安全だとは断言できないですし。 ……それに何より……ヒイロと一緒にイキたいんです。」 「……了解した。ではこのまま北に向かう。」 微妙なイントネーションが気にはなったが、ボートを発進させる。 陸地の最北端に向かわせた後、北へと航路を向ける。 □ 「そろそろ境界線の辺りだな。」 ボートを止め、二人で周囲を見回す。 「目に見えるような境界はありませんねぇ。」 「……そうだな。」 少しずつ進み、首輪を使って確認していく方法も考えたが、それでは時間がかかりすぎる。 「このまま北上する。ファサリナは周囲の監視を頼む。」 「はい、お任せください。」 緩やかな速度で北上するモーターボート。 デバイスの表示は[A-1]のまま。 前方は濃い霧がかかっていて先が見えない。 「……何か気がついたか、ファサリナ。」 問われたファサリナは首を傾げて答える。 「そうですねえ……後ろの陸地が、全然小さくならないことでしょうか?」 「何?」 振り返るヒイロ。 確かに、陸地が見える距離だ。 「……もう一度、進んでみよう。」 今度は全速力でボートを進ませる。 ―――が、陸地との距離は変わらないように見える。 (……火山の時のように、ホログラムか…?) 逆に、船を返して南へ向かうと、陸地は近づいてくる。 何度か繰り返してみたが、結果は同じ。 「……どういうことだ?」 砂漠や雪原のように周囲が同じ光景で、進んでいるように見えても結局同じ位置をグルグル回っている、というのとも違う。 船は確かに進んでいるのに、位置が変わっていない、とでも言うのか。 「うーん……これを飛ばしてみましょうか?」 ファサリナが円盤状の物体を取りだす。 「そうだな、頼む。」 「ええ、お任せ下さい。……さあ。お行きなさい!」 ファサリナが前方へ円盤を投擲する。 ―――すると、円盤状のユニットが予測位置に到達する前に、空中で止まっているように見える。 「ええと……前に進めない……のでしょうか?」 ファサリナが首を傾げる。 「単純には突破できない、という訳だな。」 (或いは、これが[結界]という技術の為せる技なのか……?) ヒイロが思案している内に、「さあお戻りなさい」 とファサリナがプラネイトディフェンサーをバックに戻す。 「……これではまるで鳥籠ですね……自由は私達には無いとばかりに。」 過去の自分をどうしても思い出してしまう。 主催に対してやはり悪い感情を抱いてしまう。 「……そんな籠は、破壊してしまえば良いだけのことだ。……【心霊スポット】に向かうぞ。」 「……ええ、行きましょう。」 暗かった表情から、少し微笑みを戻し、ヒイロに頷く。 (……人の心を忖度するのが苦手、なんてやっぱり嘘ですね。) □ 廃ビルを見上げるファサリナ。 「大きいですね……」 「……ああ。」 [巫条ビル]と書かれた高さ70メートルを超える廃墟のビル。 これが【心霊スポット】なのだろう。 このビル全てを虱潰しに調べるとなると、とても封鎖時間まで間に合わない。 ポイントを絞って調べるか、念入りに調べて陸路を取るかだ。 「とりあえず、中に入ってみましょうか」 「……そうだな。」 入口の自動ドアは電力が通っていないのか、開かない。 仕方無く蹴破り、中に侵入する。 「ドアが開いていなかった以上、この建物に入るのは俺達が初めて、ということだな。」 「ええ。……そういえば、首輪の交換機や無人販売機もここにあるはずでしたね。」 日中だと言うのに内部は薄暗く、外の光を拒絶しているようにも見える。 「……なんだか、気味が悪いですね。」 さりげなくヒイロに身体を密着させながら辺りを見回す。 フロアを見渡すが、何か特別な装置のようなものは無い。 ―――すると、急にポン、と機械的な音が鳴り響く。 「きゃ!」 思わずヒイロに抱きついてしまう。が。 「……エレベーターには電気が通っているのか……?」 音にも、ファサリナの行動にもまったく動ぜず、冷静に判断する朴念仁。 (やはり、異常性癖……二次元に懸想する殿方なのでしょうか) ちょっぴり傷ついた顔のファサリナが応じる。 「……乗ってみます?」 「ああ、問題ない。」 スタスタとエレベーターに歩き始めるヒイロに対し、慌てて追いかける。 □ エレベーターに入り、1階から20階までのボタンがあることを確認する。 「どの階に行きましょう?」 一階ずつでは埒が明かない。 何か装置を置くならば、地下或いは最上階といったところか。 そしてどうやら地下は無いようだ。 「……最上階を頼む。」 最上階のボタンを押し、エレベーターに乗る二人。 扉が閉まると、その扉は鏡張りになっていて、二人の姿を映す。 「っと、少しびっくりしました……何なのでしょうね、ここは。」 旧式のエレベーターなのか、ゆっくりと最上階を目指す。 □ 最上階に到着すると、元々そこは展望台だったのか、ガラス張りで囲んでいた名残が見える。 ――今は吹き抜けになっているが。 到着したエレベーター出入口の横に、換金ボックスと無人販売機が並んで鎮座していた。 「この首輪は、金額的には大した額にはならないだろう。……それに、その為に預かったわけでもない。」 「ええ、存じています。」 リリーナという少女に対し、何か特別な想いを抱いていること理解した上で、頷く。 わざわざ帝愛とやらの思惑通りにさせる必要などもない。 ヒイロは念のため販売機を覗いて見たが、現在の装備に比べて魅力的な物があるわけでもなかった。 「【城】で手に入れたこれらは、やはりイレギュラーな物ということか。」 GNツインバスターライフル、GNチャージキット、プラネイトディフェンサー、そしてゼロガンダム。 今の自分達の装備は、参加者の平均的な水準より優れた物を手に入れている、という判断ができる。 「施設毎のサービス、というのもペリカが無い以上は分からないのでしょうね。」 「ああ、そちらは諦めるしかないな。」 後はその[結界]とやらの手がかりを探すだけだ。 「屋上を手分けして探してみましょうか。」 二人で装置らしき物が無いか、念入りに探していく。 だが、そもそも[結界]なるものがどんなものか分からない以上、調査が捗るものでもない。 どちらもその分野に関しては門外漢なのだ。 調査していくうちに、ファサリナが屋上の端まで移動していく。 「……なんだか、吸いこまれてしまいそうですわね。」 淵を覗き、幻想を見る。 「……同志……ここから進めば、同志に逢えるのですか……?」 ふらふらと、引き込まれるように、進んで行く。 この境界線を越えれば楽園が、同志が微笑んで待っている楽園が――― 「……今、参ります……」 ……………… ………… …… 「……しっかりしろ!」 気が付くと、後ろから強い力で抱き付かれていた。 「あ、あら……ええと……?」 どうも、そのまま落ちそうだったらしい。 「……どうか、しばらくそのままで……」 なんだかちょっぴり嬉しいので、このままでいてみる。 ………… 「……時間だ。もう移動しなくてはならない。」 「そうですか……残念です。」 「……行くぞ。」 やっぱりスタスタと行ってしまう朴念仁を、慌てて追いかける。 □ ビルから出て、ボートに向かって歩き出す二人。 「……そろそろか。」 時計を確認し、立ち止まるヒイロ。 「どうかしましたか?」 「目標を、破壊する。」 「は?」 「目標を破壊する。」 GNツインバスターライフルを取りだす。火山での使用時からチャージ完了までもう少し。 [忍野メメ]なる人物に[結界]の[修復]を依頼した以上、物理的に破壊すれば、少なくとも何らかの影響は出る、ということだ。 自分は、破壊しかできない男だ。 ならば、帝愛の目論見ごと破壊するのみ。 「……任務、了解」 デイパックからチャージキットを取り出し、照準を定める。 「チャージ完了まで 3……2……1……ゼロ!」 トリガーを引き、ビルの下層に向けて閃光を放つ。 赤い粒子を帯びた光の奔流が、ビルに向かって迸る。 ―――瘴気が漂うビルに、全てを薙ぎ払う光が到達する――― その光の奔流を見ながら、やはりヒイロ・ユイは希望の灯であることをファサリナは再認識する。 ……まったくもって出鱈目で無鉄砲ではあるが。 既に火山での使用時に火力は把握している。 堅牢なる建物を一撃で破壊し尽くすことは不可能。―――ならば。 トリガーを引きながら躊躇なくチャージキットをライフルに嵌め、光の放出を継続させる。 (籠を、壊す……ヒイロなら、本当に成し遂げてしまうかもしれない) 『主催者の技術を奪い、反撃する』 彼はそう言った。 そして、小さい事象ながらも有言実行している。 (私は、間違っていなかったのですね、同志……) ―――光が収束し、ビルだったものは、大きく音を立てて崩落していく。 「……任務、完了」 □ 「一度最北まで移動し変化があるかないかを確認した後、東へ向かう。」 「ええ、何か変わっていると良いのですが。」 モーターボートを北の境界線へと飛ばすヒイロ。 「……確かこの辺りだったな。」 「あら……霧が、無くなっていますね。」 先程まで前方にあった霧が晴れ、水平線が見えるようになっている。 (……やはり、[結界]とやらが関係しているのか……? 各施設の[結界]をすべて壊せば、外界からの干渉を受けられるということだろうか……?) (なんでしょう……ここでなら、【ダリア】を呼べるような気がします。) 共に考察したいところだが、何しろ時間が無い。 「ファサリナ」 「はい、任務了解、です」 にっこりと、ヒイロの口調を真似て円盤を投げる。 ―――すると、なんらかの抵抗の後、それを突破する円盤。 それを見て喜色を浮かべるファサリナ。 「これで……」 言いかけるファサリナに対し首を振り、己の首を指さす。 「ああ……そうでしたわね……」 「仮に突破したとしても、首輪で爆破ないし警告されるだけだ。 またそれを超えたとして、物理的な排除もありうるだろう。」 首輪の解決が最優先。 そしてその後の対処の為にやはりモビルスーツ、ないしはそれに類する兵器の奪取が必要だ。 「するべきことはまだ多くある……頼むぞ」 「はい……え?」 この少年は頼む、と言ったのか。 一切他人に頼らないであろうこの少年が。 「ええ、ええ……お任せ下さい、ヒイロ。」 可憐なる花のように、ファサリナは微笑む。 □ 船上、デバイスの表示が[A-2]から[A-3]に変わる。 「……ギリギリでしたね。」 ふ~と息を吐くファサリナ。 (本当に、この少年と共に歩むのは大変ですね。) 心持ち微笑をしながら、そんなことを思う。 「問題ない。……それよりも、ひとつ試してみたいことがある。」 デイパックから首輪を取り出す。 意図を察したファサリナが問う。 「よろしいのですか?無くなってしまうかも……」 「問題ない。これに関する情報は一つでも欲しい。」 「分かりました。」 支給品のテープでしっかりと固定させ、空中でも落ちないことを確認する。 「もし爆発した場合の為に、他のディフェンサーも展開させておいてくれ。」 「了解、です。……さあ、お行きなさい!」 プラネイトディフェンサーを前方に展開し、首輪つき円盤を禁止エリア方向に向けて投擲する。 ……………… ………… …… 「……爆発……しませんね。」 「ああ………」 (バイタル・サインを確認しているということか……? それとも有機物……人間が所持していて禁止エリアに入ることが爆破条件ということなのか? ……バイタルサインを偽装できれば、エリアによる爆発は防げる可能性があるか。) とはいえ断定はできない。断定できるのは 「首輪だけが禁止エリアに入っても爆発しない」 ということだけ。 (やはり、帝愛は首輪の自由制御はできないのか……?) 以前考察した情報の一部証明にはなった。 何より、首輪が無事だったのはありがたい。 ディフェンサーを戻しながら、ファサリナが問う。 「それで、この後はこのままエスポワールへ?」 「……そうだな。」 正確には、エスポワールの下にあるという、“ジングウ”と呼ばれる物の確認。 モーターボートで海上から向かう二人の先に待っているものは――― 【A-4/海上/1日目/午後】 【ヒイロ・ユイ@新機動戦記ガンダムW】 [状態]:左肩に銃創(治療済み) [服装]:普段着(Tシャツに半ズボン) [装備]:コルト ガバメント(自動銃/2/7発/予備7x5発)@現実、M67破片手榴弾x*********@現実(ファサリナとはんぶんこした)、大型マチェット@現実 [道具]:基本支給品一式、『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム~戦場の絆~』解説冊子、シャベル@現実 Oガンダム@現実(通信機、ゼロシステム@新機動戦記ガンダムW )、落下杖@新機動戦記ガンダムW、GNツインバスターライフル GNチャージキット×3、リリーナ・ドーリアンの首輪 [思考] 基本:主催を倒し、可能ならリリーナを蘇生させる 0:エスポワールの海底にあるという“ジングウ”の調査 1:首輪の解除、及びそれに類する情報の取得 2:モビルスーツ、ないしはそれに類する兵器の奪取 3:「結界」の破壊 4:ゼロなどの明確な危険人物の排除 [備考] ※参戦時期は未定。少なくとも37話「ゼロ対エピオン」の最後以降。 ※ヴァンを同志の敵と認識しています ※ファサリナの言う異星云々の話に少し信憑性を感じ始めています。 ※ファサリナのことは主催に対抗する協力者として認識しています。 ※それと同時に、殺し合いに乗りうる人物として警戒もしています。 ※忍野メメという人物が味方の工作員かもしれないと疑っています。 ※結界によってこの島の周囲が閉ざされていることを知りました。また、結界の破壊により脱出できる可能性に気が付きました。 【ファサリナ@ガン×ソード】 [状態]:健康 [服装]:自前の服 [装備]:ゲイボルグ@Fate/stay night 、M67破片手榴弾x*********@現実(ヒイロとはんぶんこした)、イングラムM10(9mmパラベラム弾32/32) [道具]:基本支給品一式、軽音部のラジカセ@けいおん、シャベル@現実、プラネイトディフェンサー@新機動戦記ガンダムW イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、お宝ディスク、Blu-ray Discドライブ搭載ノートパソコン [思考] 基本:主催を倒し、可能ならカギ爪の男を蘇生させる 0:ヒイロと共に行動する 1:なるべく単独行動は避けたい 2:ゼロなどの明確な危険人物の排除。戦力にならない人間の間引き。無理はしない。 3:首輪が解除できたらダリアを呼んでみる? [備考] ※21話「空に願いを、地に平和を」のヴァン戦後より参戦。 ※トレーズ、ゼクスを危険人物として、デュオ、五飛を協力が可能かもしれぬ人物として認識しています 。 ※ヒイロを他の惑星から来た人物と考えており、主催者はそれが可能な程の技術を持つと警戒(恐怖)しています。 ※同志の死に疑念を抱いていますが、ほとんど死んだものとして行動しています 。 ※「ふわふわ時間」を歌っている人や演奏している人に興味を持っています 。 ※ラジカセの中にはテープが入っています(A面は『ふわふわ時間』B面は不明) 。 ※結界によってこの島の周囲が閉ざされていることを知りました。また、結界の破壊により脱出できる可能性に気が付きました。 時系列順で読む Back 命短し恋せよ乙女(後編) Next 試練~ETERNAL PROMISE~(前編) 投下順で読む Back 命短し恋せよ乙女(後編) Next 試練~ETERNAL PROMISE~(前編) 182 裸だったら何が悪い!~ヒイロ―! ヒイロ―!~(後編) ヒイロ・ユイ 211 建物語 182 裸だったら何が悪い!~ヒイロ―! ヒイロ―!~(後編) ファサリナ 211 建物語
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作者・ ◆NmPAP.ioi. 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアル 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアル本編SS目次・投下順 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアル参加者名簿 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアル参加者名簿(ネタバレ) 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアル死亡者リスト 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアルルール・マップ 厨二設定オリジナルキャラ・バトルロワイアル支給品一覧